EUでは、サーキュラーエコノミーへの挑戦が戦略的に進められている。その取り組みのひとつであるデジタルプロダクトパスポート(DPP)は、カーボンニュートラルや製品ライフサイクルのトレーサビリティを向上させるためのプラットフォームである。企業は、自社のサステナビリティ戦略の一環として、その方向性に注目すべきである。
EUにおけるサーキュラーエコノミーへの取り組み状況
2022年8月に外務省が発表した『日EU経済関係資料』によると、英国離脱後のEU加盟27ヵ国における2021年度名目GDPは、米国、中国に次いで世界第3位の巨大な市場となっている。また、この名目GDPをドル換算で比較すると、EUは日本の3.5倍程度の国力があることになる。EUは、個人情報保護規制であるGDPR(EU一般データ保護規則)を施行(2018年5月)し、EU域外への個人情報移転に対して規制を課すなど、規制と標準化を巧みに使い分けてグローバルビジネスで差別化を図ろうとしているように見える。また、EUの盟主といわれるドイツは、2013年4月に第4次産業革命であるインダストリー4.0に向けた提言を行い、CPS(Cyber Physical System)などのデジタル技術を積極的に活用することでリーダーシップを発揮してきている(ITR Insight 2015年春号『Industrie 4.0から学ぶべきもの』#I-315042)。
こうした取り組みはサステナビリティにおいても同様であり、2015年12月、EUの行政執行を担う欧州委員会(EC)は、2030年に向けた成長戦略の核として、「循環型経済パッケージ(CEP:Circular Economy Package)」を発表した。その根底には、2010年に発表された、2020年までのEU経済の競争力および雇用の強化を図る欧州成長戦略(Europe 2020)がある。Europe 2020の成長戦略の柱として、イノベーション、デジタル化、雇用確保、廃棄物を最小化する資源効率向上などがあるが、CEPは資源効率に注力しつつ、より循環的な経済に移行することで、競争力の向上やイノベーション、成長と雇用といった、ビジネスモデルの転換を提起している(図1)。当然ながら、国際社会におけるEUの競争力を向上させる狙いもある。
出典:欧州委員会のCEP案を基にITRが作成