新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの企業がテレワークを実施した。その一方、契約書類など紙の書類や印鑑処理のために出社を余儀なくされるという課題が浮き彫りになった。書類や印鑑の電子化は以前から指摘されてきた課題だが、本稿では、その解決策の急先鋒と目される電子契約サービスの動向について考察する。
コロナ禍で加速した電子契約ニーズ
電子契約サービスは、これまで紙で行っていた契約書の締結や管理のデジタル化を実現するシステム/サービスである(ITR Review 2019年7月号「導入が進む電子契約サービス」 #R-219072)。紙の契約書では、印刷・製本、押印、封入までの作業に時間と手間がかかるうえに、収入印紙や郵送などのコストが発生する。電子契約サービスを利用すれば(サービス利用料はかかるが)これらの業務時間やコストを削減することができる。加えて、電子的に保管された契約書は検索が容易であり、原本の紛失や改ざんのリスクも低減されることから、コンプライアンスの強化にもつながる。このようなメリットに加え、働き方改革への取り組みによる後押しもあり、電子契約サービスの導入企業は拡大してきている。さらに、コロナ禍におけるテレワーク環境を余儀なくされたことを機に、契約業務が行える環境を整備しようとする企業が増加している。
ITRが2020年4月に実施した「コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査」(2020年4月24日~27日調査、有効回答1,370件)では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業が具体的にどのような施策を実施したか、また実施予定であるかを尋ねた。その結果、緊急措置として新たに実施した企業が多かったのは、「テレワーク制度の導入」(37%)であり、これに「リモートアクセス環境の新規・追加導入」(27%)、「コミュニケーション・ツールの新規・追加導入」(26%)、「PC、モバイルデバイスの追加購入・新規購入」(25%)といった緊急に必要になったテレワーク関連施策が上位となった(図1)。
一方、今後の計画としては、「社内文書(申請書など)の電子化対象拡大」および「社外取引文書(契約書など)の電子化対象拡大」が同率の36%で最多となった。また、ペーパーレス化/脱ハンコに関わる項目の選択率が高い結果となった。これは、出張申請や稟議書などのさまざまな社内文書におけるハンコによる承認や、取引先など社外との契約書、見積書、請求書などの印刷・押印・郵送のために出社を余儀なくされたケースが発生したことで、これまで当たり前のこととして遂行されてきた業務の非効率性が解決すべき課題として認識され、電子化のニーズが急速に高まった結果であるといえる。
出典:ITR「コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査」(2020年4月調査)
こうした背景から、ITRの市場調査では、国内の2018年度の電子契約サービス市場は、前年度比83.5%増の36億7,000万円と算出しており、2019年度も同70.0%増と引き続き急成長を維持し、2023年度に市場は200億円に迫ると予測している(出典:「ITR Market View:ECサイト構築/CMS/SMS送信サービス/電子契約サービス市場2020」)。