営業現場における煩雑な業務プロセスをITによって効率化する「SalesTech」に注目が集まる中、顧客との契約業務にかかる時間の短縮と、紙の契約書でのやり取りにかかるコストの削減のために「電子契約サービス」の導入が先進企業で進みつつある。
導入が急速に進む電子契約サービス
電子契約サービスは、紙で行っていた契約書の締結や管理をインターネット上で実現するサービスである。紙の契約書は、印刷から製本、押印、封入までの作業に時間と手間がかかるうえに、収入印紙(印紙税)や郵送などのコストが発生する。それが電子契約では、サービス利用料はかかるものの、従来の紙で発生していた印紙税や郵送などのコストが発生しない。加えて、契約書の印刷・押印のために外出先からオフィスに戻ったり、取引先に手渡しする必要もなくなるため、働き方改革にもつながる。昨今、同サービスを導入する企業が増えている背景にはこうした理由がある。
ITRは、JIPDEC(日本情報経済社会推進協会)と共同で「企業IT利活用動向調査」を毎年実施しており、その中で電子契約の利用状況についても定点観測している。2019年1月から2月にかけて、国内企業686社のIT/情報セキュリティ責任者を対象に実施したところ、電子契約を導入済みの企業は44.2%であった。これに採用を検討している企業を含めると67.4%に達した(図1)。
電子契約の実施対象に関する内訳の変化に目を向けると、2017年度は「一部の取引先との間で電子契約を採用している(1対N型)」の割合が高かった。2018年度は「複数の部門、取引先との間で電子契約を採用している(N対N型)」が3ポイント弱伸びており、一部の企業が電子契約の対象となる取引先を拡大していることが見て取れる。2018年度から2019年度にかけては、1対NもN対Nも微増となり、ともに22%を超えて最大分布となっている。
出典:JIPDEC/ITR「企業IT利活用動向調査2019」
また、2019年6月に発刊した市場調査レポート「ITR MarketView:ECサイト構築/CMS/SMS送信サービス/電子契約サービス市場2019」において、2018年度の電子契約サービス市場が前年度比で71.2%成長し、市場規模は約37億円になると予測している。
電子契約サービスの利用企業数と市場規模の関係について考察してみよう。電子契約サービスの導入企業における契約対象となる部門数および取引先企業である「Nの値」の増加は、結果として契約書の送信件数の増加に繋がる。多くの電子契約サービスは、契約書の送信件数をベースとした利用料であるため、電子契約サービス事業者の売上げは、N値が増えるほど増加する。すなわち同サービス市場の伸びは、新規に電子契約サービスを導入する企業の増加に加え、(1)導入した企業がシステムで接続する取引先企業や部門(N値)を拡大したことで、(2)サービスを経由して送信される契約書の件数が大きく増えたことが影響していると推測できる。さらにN値が増えるということは、サービスを利用する企業の取引先が新たに「一部の取引先との間で電子契約を採用している(1対N型)」企業になることにつながる。こうした周辺企業の巻き込みによって、電子契約サービス市場は今後も拡大を続けると予想できる。