データ・サイエンティストの不足を補う存在として、「シチズン・データ・サイエンティスト」が注目されているが、その人材像についてはまだ共通理解がされる段階には至っていない。本稿では、データ・サイエンティストとの違いを明確にするとともに、シチズン・データ・サイエンティストに求められるスキルと役割を解説する。
シチズン・データ・サイエンティスト登場の背景
一般的に、シチズン・データ・サイエンティストとは、「データ分析を本業としてはいないが、データサイエンスの知識を持ち、所属するビジネス部門での業務の一環としてデータ分析を行う社員」と捉えられている。しかし、これだけでは、企業がシチズン・データ・サイエンティストを養成し、各部門で機能させるうえで必要な要件は何であるかはわからない。それを理解するには、まず、シチズン・データ・サイエンティスト登場の背景を知る必要がある。
育成や採用といった従来の人事アプローチが慢性的な人材不足によって行き詰まりを見せていることから、データ・サイエンティストの不足を解消する手段としては、データ分析業務自体の生産性の向上を目指す必要がある。このようなニーズを受けて、データマイニング・ツール(統計解析処理を目的とするデータ分析ツール)に、AI(機械学習)技術を利用することで、データ分析業務工程のうち、大部分の工数を占める「データ準備」と「モデリング」工程を効率化・省力化する機能が実装されるようになり、結果としてデータ・サイエンティストの生産性を大幅に向上させることが可能になった(ITR Review 2019年2月号「少数精鋭化するデータ・サイエンティスト組織」# R-219022)。
その後、データマイニング・ツールにおけるAI(機械学習)技術の利用はさらに高度になっており、近い将来「データ準備」と「モデリング」工程は自動化されると予想される。これが実現すると、「データ準備」と「モデリング」工程の実行に必要であったツールやプログラム言語(R、Pythonなど)のスキルが不要になり、一般のビジネスユーザーであっても一定の統計解析知識があればデータ分析業務を遂行できるようになる。つまり、シチズン・データ・サイエンティストとは、「AI(機械学習)技術の利用により『データ準備』と『モデリング』工程が自動化された環境下で、一定の統計解析知識を持つことで、データ・サイエンティストに代わってデータ分析業務を遂行できる社員」と定義することができる。
出典:ITR