ITRは2022年10月6日、年次のコンファレンス『IT Trend 2022』を、会場開催(御茶ノ水ソラシティ)とオンライン配信のハイブリッド形式にて開催した。今年のテーマは「ビジネスパラダイムの変化を見据えたDX戦略」。いまビジネスを推進するうえで、規範とすべき考え方やテクノロジ活用の指針とは何か。パラダイムシフトに追随するためのDX戦略のあるべき姿とはいかなるものか。本コンファレンスでは、ITRアナリストによるアナリストセッション、ゲストセッション、ITベンダーによる特別セッションの全15セッションが行われた。
デジタルネイティブ時代のビジネス開発アプローチ
基調講演では、プリンシパル・アナリスト 金谷敏尊による『デジタルネイティブ時代のビジネス開発アプローチ』が行われた。VUCAの環境の下、デジタル技術が急速に市場に浸透するなかでのビジネス開発には、これまでとは異なる価値観や方法論が求められている。ビジネスコンセプトの発案にはどんな技法があり、企画立案から事業化に至るステップをどう描くべきか。本講演では、デジタルネイティブ時代の企業に求められるビジネス開発アプローチが紹介された。
ITR プリンシパル・アナリスト 金谷 敏尊

新ビジネス創出に向けたDXの取り組みの現状として、金谷は「DX推進体制の成熟度には、すでに大きな企業間格差が生じている。特に初動段階の企業では、DXの重要目的である「新ビジネス創出」が滞る例が多い」と指摘。そのうえで、「デジタルイノベーション、とりわけ新ビジネス創出の成功確度は非常に低い。そのことを前提とした価値観や方法論を採用しなければならない」と語った。また、ビジネス開発やシステム開発の現場において重要となる前提事項として「デジタルネイティブの価値観へシフトすること」をあげた。
続いて、ビジネスコンセプト発案のアプローチを紹介。金谷は、ビジネス開発の初期段階において求められる、斬新なアイデアの導出の方法として、「デザイン思考」「アート思考」などのメソッドをあげた。さらに、外部/内部環境の分析結果をかけ合わせることで、ビジネス戦略の仮説を導く「クロスSWOT」、2種類の変数群を組み合わせる強制連想法により、総当たり的にアイデアを発散することができる「マトリクス法」などの手法を解説した。
引き続き、これらの手法を基にビジネスコンセプトを発案した後に必要となる、ビジネスプランの策定方法についても言及。「迅速に無駄なくビジネスモデルを共有・評価するための可視化ツールとして、リーンキャンバスが有用」とし、Peloton Interactive社を例とした分析ケースを参照しながらリーンキャンバスの活用方法を解説した。
最後に金谷は、デジタルネイティブ時代のビジネス開発においては「イノベーションへの挑戦を評価する環境をつくり、失敗を恐れない/許容するプロセスやカルチャーを備えることも重要な観点となる」として、講演を締めくくった。
メタバースの企業活用、ゼロトラストアーキテクチャ、ローコード開発など、企業の課題を網羅
2つ目の基調講演では、チーフ・アナリスト マーク・アインシュタインによる『メタバースがもたらす変化といまとるべき取り組み』が行われた。メタバースは、現在、IT業界のみならず社会においても注目を集めている。基調講演では、メタバースとは何か、企業と消費者のインタラクションのあり方をどのように変えるのか、また、今企業がメタバース活用に向けて準備すべきことについて、多くの活用事例を交えた解説が行われた。
ITR チーフ・アナリスト マーク・アインシュタイン

引き続き行われたゲスト講演では、カシオ計算機株式会社 執行役員 デジタル統轄部長 石附洋徳氏が登壇。「Beyond DX~DXを企業のあたりまえの活動に変えていくために~」と題し、講演を行った。続いて、株式会社プレナス 上席執行役員 DX本部長 高橋秀治氏による「企業変革とデジタルカルチャーについて考える」が行われた。
そのほか、特別講演として、プリンシパル・アナリスト 三浦 竜樹による「『IT投資動向調査2023』速報値から見るIT投資の道標」が行われた。
午後からのITRのアナリストによるセッションとITベンダーによる特別セッションでは、次世代エンタープライズシステム導入、業務自動化、ゼロトラストアーキテクチャ、ローコードツールによる開発、デジタルマーケティング成功のためのパーソナルデータ活用指針、DXの浸透と定着化に向けた道筋と要点といった多様なテーマについて、最新動向の解説とともに企業への提言が行われた。