本調査では、従来から定点観測しているIT予算の増減傾向や売上高に対する比率について分析しています。また、IT部門の人員構成の変化、IT投資や戦略・施策の状況との関係性、110に及ぶ製品・サービスの投資意欲の動向についても定点分析しています。加えて、DXやAI関連予算の策定状況や、DX施策の推進状況およびAI活用の業務・用途について、昨年から引き続き調査しています。これらの調査結果に一部経年変化も加えて分析した『国内IT投資動向調査報告書2026』を発行します。
調査対象
- ITR顧客企業およびITR保有の独自Webパネルのうち、国内企業に所属し、IT戦略・IT投資の意思決定に関与する役職者
- 有効回答数 2,214件
調査内容
- IT投資の方向性
- IT戦略と注目すべきIT動向
- DX関連予算策定状況と対象領域/成果獲得状況
- AI関連予算策定状況と適用業務領域
- 製品・サービス(110分野)への投資動向
- IT部門の人員構成および人材配置の施策 他
本調査では国内企業におけるIT投資の実態とIT戦略の現状と今後の展望をまとめ、過去の調査結果との経年変化に加え、業種別(製造/建設・不動産/卸売・小売/金融・保険/情報通信/サービス/公共)、従業員規模別(5,000人以上/1,000~4,999人/300~999人/300人未満)、および一部売上規模別(5,000億円以上/1,000億~5,000億円未満/500億~1,000億円未満/100億~500億円未満/10億~100億円未満/10億円未満)にデータをクロス集計することで詳細な分析を行っています。
調査ハイライト
19年ぶりにIT投資インデックスが過去最高値を更新
国内企業における2025年度(2025年4月~2026年3月)のIT予算額は、前年度比で「増額」と回答した企業が47%となり、過去最高値を記録した2024年度からさらに3ポイント増加しました。2026年度に向けても、増額企業の割合は同水準での推移が見込まれていますが、10%以上の増額を見込む企業の割合はわずかに減少する見通しです。
このIT予算額の増減を指数化した「IT投資インデックス*1」の2025年度(実績値)は5年連続で上昇し、2006年度の過去最高値(3.88)を19年ぶりに上回る4.10を記録しました。2026年度の予想値は3.90とやや低下する見込みですが、2021年度以降、同インデックスの実績値は毎年、前年調査時の予想値を上回っています。近年、AIの業務適用をはじめとするDXの推進や、クラウドサービス利用料や人件費の上昇が続いており、実際の支出額は策定時予算を上回る傾向にあります。これらの要因から、2026年度においてもIT予算の増額基調は継続すると予想されます。
*1 IT予算の前年度比の増減が「20%以上の増加」を+20、「10%から20%未満の増加」を+15、「10%未満の増加」を+5、「横ばい」を0、「10%未満の減少」を-5、「10%から20%未満の減少」を-15、「20%以上の減少」を-20、として積み上げて回答数で除した値(2016年度以降)。2015年度以前の値は、調査時の設問の選択肢が異なったため、「20%以上の増加」を+20、「20%未満の増加」を+10、「横ばい」を0、「20%未満の減少」を-10、「20%以上の減少」を-20、として同様に算出。
重要となる「攻め」と「守り」両輪への投資
IT戦略として企業が重視する課題は、前回調査から大きく変化し、最重視する課題(1位のみの選択率)のトップは、前回調査で6位だった「システムの性能や信頼性の向上」となりました。前回1位の「デジタル技術によるイノベーションの創出」は、今回2位に後退しました。AIなどデジタル技術の活用が加速する一方で、システム障害やサービス停止が重大なビジネスリスクとして認識されるようになり、システムの堅牢性を重視する傾向が強まっていると考えられます。また、「サイバー攻撃への対策強化」も7位から4位に上昇しており、ランサムウェアをはじめとするサイバー攻撃が後を絶たないことから、経営課題としてセキュリティ対策の重要性が一層高まっていることが推察されます。
「デジタル技術によるイノベーションの創出」やその基礎となる「情報やデータの活用度向上」といったDXによる「攻め」のテーマは依然高い重要度を維持しながら、「システムの性能や信頼性の向上」や「サイバー攻撃への対策強化」といった「守り」のテーマに対する課題意識も高まっていることが示されました。
AI関連製品・サービスが新規/追加投資の上位を独占
企業ITに関わる全110項目の製品・サービスを対象に、現在の導入状況と今後の投資計画を調査した結果を基に、2026年度に新規で導入する可能性を「新規導入可能性」、導入済み企業での2026年度の投資額の増減予定を「投資増減指数」として算出しました。
2026年度の新規導入可能性では、「AI/機械学習プラットフォーム」が前年調査の2位から再び1位に返り咲き、2位には今回新たに調査項目に追加した「AI支援開発*2」がランクインしました。前年調査で1位だった「生成AI」は3位に後退しました。一方、2026年度の投資増減指数では、「生成AI」が1位、「AI/機械学習プラットフォーム」が2位と、前年調査と同じ順位を維持し、3位には前年調査の「ローコード/ノーコード開発」がトップ10圏外に後退したのに代わって「AI支援開発」が入りました。このように、2026年度もAI関連製品・サービスへの投資が引き続き上位を占めました。
このほか、新規導入可能性では、4位に「チャットボット/チャットサポート」、7位に「エッジコンピューティング」、投資増減指数では4位に「音声認識」、5位に「運用自動化/AIOps」が入り、トップ10の半数をAI関連製品・サービスが占めています。さらに、新規導入可能性で5位の「VR/AR/MR」は、音声認識や画像認識を搭載したスマートグラスの“AIグラス(AR/MRを表示するディスプレイ機能は必須ではない)”の登場で注目が高まっています。
*2 アプリケーション開発の各作業(企画、設計、実装)をAI支援で実施する手法およびツール
クラウド/AIネイティブな「攻め」のDX推進とともに「守り」のためのIT投資計画を
今回の調査結果を受けて、ITRのプリンシパル・アナリストである三浦竜樹は、次のようにコメントしています。
「国内企業のIT投資は、過去最高水準での推移が続いています。特にAI関連への投資は引き続き活発ですが、同時にシステムの安定稼働やサイバー攻撃などのセキュリティ対策の重要性が高まっていることは、注目すべき動きといえます。
IT製品・サービスへの投資意欲に関しては、2026年度も『AI/機械学習プラットフォーム』や『生成AI』をはじめとしたAI関連への投資が上位を占めています。『音声認識』『画像認識』といった特化型AI、『チャットボット/チャットサポート』『エッジコンピューティング』『セールスイネーブルメント』などのAI組み込み型製品・サービス、さらに『AI支援開発』『運用自動化/AIOps』といったAI活用による最適な開発・運用環境への投資も活発化することが見て取れました。一方、『脆弱性診断/レッドチーム演習』などサイバー攻撃対策に向けた追加投資も積極的な姿勢がみられます。
IT部門は、AIと連携する業務データを扱う業務部門や、AIやエッジコンピューティングなど先端技術の研究チームとともに、AIを活用した「攻め」のDX推進と並行して、こうしたIT基盤の可用性を強化するための「守り」の投資計画の策定が求められます。」
目 次
第1章 調査概要
1.1 調査の概要
1.2 回答者のプロファイル
1.3 回答者の所属部門と役職
1.4 回答企業の売上増減
1.5 データ利用上の注意
第2章 エグゼクティブ・サマリ
2.1 IT予算額の増減傾向とIT予算比率の変化
2.1.1 過去最高値を記録したIT投資インデックス
2.1.2 12年ぶりに3%台に上昇したIT予算比率
2.2 IT戦略上の課題
2.2.1 重要となる「攻め」と「守り」両輪への投資
2.3 DX推進の取り組み状況
2.3.1 DX関連予算の計上企業は8割強で横ばい
2.3.2 着実な進展を示したDX推進体制・プロセス
2.4 AI活用推進の状況
2.4.1 半数の企業がAI関連予算をIT予算に計上
2.4.2 顧客対応業務やセキュリティなどでAI活用が拡大
2.5 テクノロジへの投資意欲
2.5.1 新規/追加投資ともAI関連製品・サービスが上位
2.6 総評と提言
第3章 IT投資の方向性
3.1 IT予算の増減傾向
3.1.1 IT予算額の増減傾向
3.1.2 IT投資インデックス
3.1.3 売上規模別に見るIT予算額の増減とIT投資インデックス
3.2 企業におけるIT予算比率
3.2.1 IT予算額の分布
3.2.2 売上規模別に見るIT予算額の分布
3.2.3 売上げに対するIT予算比率
3.2.4 売上規模別に見る売上げに対するIT予算比率
3.3 ITRの所見と分析
第4章 IT投資の戦略性
4.1 IT新規投資
4.1.1 IT予算に占める新規投資比率
4.1.2 売上規模別に見るIT予算に占める新規投資比率
4.1.3 売上増減別に見るIT予算に占める新規投資比率
4.2 新規投資における目的別の内訳比率
4.2.1 新規投資額の目的別内訳比率
4.2.2 売上規模別に見る新規投資額の目的別内訳比率
4.2.3 売上増減別に見る新規投資額の目的別内訳比率
4.3 IT予算の投資領域別内訳
4.3.1 IT予算の投資領域別内訳
4.4 ITRの所見と分析
第5章 IT戦略と注目すべきIT動向
5.1 IT戦略上の重要課題
5.1.1 最重要視するIT戦略上の課題
5.1.2 最重要視するIT戦略上の課題の変化
5.1.3 重視するIT戦略上の課題(重み付けポイント)
5.2 主要なIT動向に対する重要度と実施状況
5.2.1 主要なIT動向に対する重要度
5.2.2 主要なIT動向に対する実施状況
5.2.3 重要度と実施状況の関係
5.3 ITRの所見と分析
第6章 DXへの取り組み動向
6.1 DX関連予算の計上状況
6.1.1 DX関連予算の計上状況
6.1.2 売上規模別に見るDX関連予算の計上状況
6.2 DX関連予算額と増減傾向
6.2.1 DX関連予算額の分布
6.2.2 売上規模別に見るDX関連予算額の分布
6.2.3 DX関連予算の増減傾向
6.2.4 売上規模別DX関連予算の増減傾向
6.3 DXに向けた取り組み体制
6.3.1 DXに向けた体制・プロセスの整備状況
6.3.2 DXを推進する組織・体制
6.4 DX推進施策の進展状況と実践度スコア
6.4.1 DXテーマの取り組み状況
6.4.2 DX実践度スコア
6.5 ITRの所見と分析
第7章 AIへの取り組み動向
7.1 AI関連予算の計上状況
7.1.1 AI関連予算の計上状況
7.1.2 売上規模別に見るAI関連予算の計上状況
7.2 AI関連予算額と増減傾向
7.2.1 AI関連予算額の分布
7.2.2 売上規模別に見るAI関連予算額の分布
7.2.3 AI関連予算の増減傾向
7.2.4 売上規模別に見るAI関連予算の増減
7.3 AIの活用対象となる業務・用途
7.3.1 AIの活用対象となる業務・用途
7.4 ITRの所見と分析
第8章 IT部門の人員動向と決定権
8.1 IT部門の正社員の配置および今後の計画
8.1.1 IT部門の正社員比率
8.1.2 IT部門正社員数の増減計画
8.1.3 IT予算の増減予想別に見るIT部門正社員数の増減計画
8.2 IT人員の内訳
8.2.1 IT子会社からのサポート状況
8.2.2 IT人員の総従業員数に対する比率
8.2.3 IT子会社の有無別に見るIT人員比率および構成
8.2.4 IT人員比率の経年変化
8.3 デジタル戦略遂行のための人材配備策
8.3.1 デジタル戦略遂行のための人材配備策の変化
8.4 IT支出に決定権をもつ主体者
8.4.1 IT支出に決定権をもつ主体者とIT支出の割合
8.4.2 売上規模別に見るIT支出に決定権をもつ主体者とIT支出の割合
8.4.3 各主体者が決定権をもつIT支出割合の分布
8.5 ITRの所見と分析
第9章 製品・サービスへの投資動向
9.1 製品・サービス分野への投資意欲(全体)
9.1.1 製品・サービス分野全体の投資意欲
9.2 インフラ/デバイス分野への投資意欲
9.2.1 インフラ/デバイス分野への投資意欲
9.2.2 業種別に見るインフラ/デバイス分野への投資意欲
9.2.3 従業員規模別に見るインフラ/デバイス分野への投資意欲
9.3 ミドルウェア分野への投資意欲
9.3.1 ミドルウェア分野への投資意欲の全体傾向
9.3.2 業種別に見るミドルウェア分野への投資意欲
9.3.3 従業員規模別に見るミドルウェア分野への投資意欲
9.4 業務系システム分野への投資意欲
9.4.1 業務系システム分野への投資意欲の全体傾向
9.4.2 業種別に見る業務系システム分野への投資意欲
9.4.3 従業員規模別に見る業務系システム分野への投資意欲
9.5 情報系システム分野への投資意欲
9.5.1 情報系システム分野への投資意欲の全体傾向
9.5.2 業種別に見る情報系システム分野への投資意欲
9.5.3 従業員規模別に見る情報系システム分野への投資意欲
9.6 セキュリティ分野への投資意欲
9.6.1 セキュリティ分野への投資意欲の全体傾向
9.6.2 業種別に見るセキュリティ分野への投資意欲
9.6.3 従業員規模別に見るセキュリティ分野への投資意欲
9.7 全製品・サービスの投資動向まとめ
9.7.1 新規導入/投資増加が期待される上位10製品・サービス
9.7.2 各分野における上位3製品・サービス
9.8 ITRの所見と分析
調査票