AI技術は業務における適用範囲を広げつつあるが、現時点では、多くの業務で人の介在が欠かせない。そこで必要となるのが、人間の判断・倫理・文脈理解をプロセスに組み込む「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という概念である。本稿では、生成AI活用が本格化するなかで、人間の新たな役割を整理するとともに、人とAIが協働するための主要モデルについて概説する。
AIとの協働に向けた「人」の役割とは
生成AIは、従来のAI技術が担ってきた識別や分析、予測といった領域を超え、新たなコンテンツやアイデアを創り出す能力をもつ。これにより、業務自動化の範囲は確実に拡大し、マーケティングコピーや報告書の生成から、要約・翻訳、ソフトウェア開発、デザイン・画像・音楽の生成など、これまで人間の感性に依存していた領域も、自動化・効率化の対象として浮上している。しかしその一方で、ハルシネーションやバイアス/偏見の存在、著作権侵害や倫理面での配慮不足など、看過できないリスクが生成AIには存在することも広く知られるようになった。これはつまり、生成AIを業務に適用する際は、何らかのかたちで人の介在が不可欠であることを示している。
人とAIの協働モデルを考えるうえで強く推奨したいのは、「AIに何ができるか」ではなく、「人が本来なすべきことは何か」から発想するという人間中心のアプローチをとることである。換言すれば、AIができることの“残り”を人間が担うのではなく、人間が果たすべき責任や創造性を先に定義し、それを最大化するためにAIを使う、という基本理念を掲げることといってよい。この点は、今後、組織内で人とAIがスムーズに協働するうえで重要な指針となるはずである。
では、AIと協働することを前提とした場合、人の役割とはどのようなものだろうか。それは、大きく以下の3つに集約されると考えられる。
●AIを動かす
AIを道具として扱い、正しい方向へ導くとともに結果に責任をもつ
●AIを育てる
AIが職場で機能し続けるよう支え、磨き上げる
●人間価値を発揮する
AIには代替できない、人間本来の価値を提供する
これらの役割を少し細分化すると、図1のようになる。その対象は、特定の部門や人材(AI推進部門やAIエンジニア)だけでなく、経営層からエンドユーザーまで、AIと関わる全ての関係者に及ぶものである。
出典:ITR