変化の激しい現代の事業環境において、多くの企業はレジリエンス(回復力)、適応性、そしてアジリティの高い企業運営を希求している。これには、環境変化の迅速な検知と、短サイクルでの目標達成の計測・分析が不可欠である。さらに、分析結果を多面的に検証し、データドリブンな意思決定を迅速に行動にフィードバックするサイクルが重要となる。こうした企業運営を支えるいわば経営OS(Operating System)は、AI技術により実現可能となっている。
ビジネスの成果を計測しアクションを起こすために
将来、どのように企業が変革を余儀なくされるかや、事業構造や業務プロセスがどのように変化するかを予測することはできない。そのため、予測不能な時代の企業運営のあり方が長年研究されてきた。ITRでは、その解となるひとつのモデルとして、約四半世紀前の2002年に、こうした状況に適応できるマネジメントスタイルやITインフラとして「センス&レスポンド型」を提唱していた(ITR Review『制御できる経営のための業績管理』R-202101)。しかし、当時はこれを支えるための産業構造、組織、業務プロセス、アプリケーション、ITインフラ、データが整っておらず、この概念を実現できた企業は少なかった。デジタル化が浸透する現代は、まさにこの概念を実現する好機である。一方で、デジタル化の潮流は、産業構造や市場変化のスピードを今後さらに加速させていくだろう。このような時代にビジネスを成長させていくためには、新たな経営OSを基盤とすることで、外部環境の変化のシグナルをいち早く察知し適応可能な、柔軟性の高い企業運営が求められる。Web、クラウド、AIといった大きなIT技術変遷を経て、こうした経営OSはすでに現実解となっている。
起点となるのは、今何が起きているのかをビジネスの成果から計測することである。遡ってみると、財務データなどの結果指標だけでなく、顧客や内部プロセスの状況といった先行的指標の因果連鎖にも目を向けたバランスト・スコアカード(BSC)が、経営管理や業績評価の手法としてかつて注目された。BSCは、短期的な財務目標と長期的な価値創造のドライバとのバランスを取ることを促すことで、組織全体を単一の整合性ある戦略に紐づけることに特徴がある(ITR Insight『ITを活用したビジネス・パフォーマンス管理』I-301051)。しかし、BSCはその包括性ゆえに、複雑で硬直的なモノリシックなシステムとなりがちである。環境変化が激しい現代において、俊敏な行動メカニズムを伴わないBSCは、現実から乖離した「絵に描いた餅」になるリスクを内包している。