米国のドナルド・トランプ政権が打ち出した相互関税政策(通称:トランプ関税)は、日本国内でも大きな衝撃とともに受け止められた。動勢は流動的だが、その影響は国内企業の経営戦略、IT戦略にも及ぶとみられる。本稿では、2025年4月下旬にITRが緊急実施した調査結果を基に、国内企業のIT責任者が「トランプ関税」をどのように受け止めているかを分析する。
半数以上のIT責任者がIT/DX戦略の減速を予想
2025年4月初旬に発表された米国の相互関税政策は、日本からの全輸入品に対して24%の相互関税を課すという衝撃的な内容を含むものであった。今後、2国間交渉によって税率が緩和される可能性はあるが、最大の貿易相手国による大幅な関税引き上げは、国内企業のIT責任者にとっても無視できない問題である。そこで、ITRでは、2025年4月22日から24日にかけて、従業員数50人以上の国内企業に所属する課長職以上のIT戦略関与者に対して緊急調査を実施し、1,271件の有効回答を得た。調査結果からは、トランプ関税が自社の業績だけでなく、IT/DX戦略の進展にも影を落とすと考える企業が多いことが明らかになった。
トランプ関税が自社のIT/DX戦略に対してどのような影響を及ぼすかを問うた結果では、短期的(1年以内)には60%、中期的(3~5年程度)では51%の企業がそれぞれ「減速させる」と回答した(図1)。
出典:ITR『米国の関税政策にかかるIT動向調査』(2025年4月調査)
この結果は、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大時に実施したITRの緊急アンケートで、企業の7割以上が感染拡大を受けてIT戦略が「加速する」と回答した(「ITRリサーチペーパー『コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査』報告書」C-20050131)のとは対照的である。関税政策が本業の収益を圧迫するだけでなく、ITに関わる調達コストの上昇をもたらし(ITR Review『トランプ関税がIT支出とIT調達に及ぼす影響』R-225064)、その結果としてIT/DX戦略が停滞することを危惧しているIT責任者が多いとみられる。