ITR Review
業務にシステムを適応させる
ERP導入において、従来型のFit & Gapと対比させてFit to Standardというメッセージを発信するベンダーが増えてきている。「標準に合わせる」ことは重要であるが、何を標準と位置づけるかによって、システム化の方針や方向性は大きく異なる。企業は、ERP導入において、自社が描いた理想像を標準として、業務にシステムを適応させていくべきである。
昨今、ERPの導入アプローチとして、Fit to Standardというキーワードがベンダーから発信されるようになってきている。これは、文字通り「標準に合わせる」ことを強調するものである。まずはじめに、Fit to Standardの説明において、よく対比されるFit & Gapも取り上げつつ、標準の位置づけや拡張方法などの基本的な要素を整理する(図1)。
①Fit & Gapは、製品を標準と位置づける点においては②Fit to Standardと同様であるが、ベストプラクティスを強調するのが特徴であろう。昨今は死語になりつつあるベストプラクティスだが、多くの企業で導入されたERP製品には業務ノウハウがフィードバックされ蓄積されており、優れた汎用性を持つことを立脚点とする。また、現状業務のAs-Is分析から、あるべき姿をTo-Beとして対比させるEA(エンタープライズアーキテクチャ)時代のアプローチを継承している。そのため、導入期間が長く追加開発が膨らみやすいといった短所がクローズアップされることが多い。
Fit & Gapが、オンプレミスの従来型ERPパッケージ導入で主流であったのに対し、②Fit to Product StandardはクラウドERPの導入に適したものとして対比する発信が多いが、あくまで製品を標準と位置づけている点は①のFit & Gapと共通である。複数のSaaSの併用や、PaaS開発を組み合わせながら、クラウドERPで強化されたExtensibility(拡張性)の活用を基軸とすることが多い(ITR Insight 2022年春号『次世代エンタープライズシステム導入に向けた留意点』 #I-322042)。これにより、As-Isの現状業務分析やソースコードを記述する追加開発を削減でき、短期間・低コストでのERP導入が可能になる点を差別化のポイントとしている。ただし、①のベストプラクティスと同様、プロジェクトの推進や要所の意思決定では、業務をシステムに合わせるためにトップダウンのリーダーシップが必須である。
③Fit to Company Standardは、自社の理想像を標準とするアプローチである。このアプローチは、ITRが2018年10月に開催した「ITTrend 2018」において提唱したものである。システム導入において鍵となる重要性の高い自社標準が、どのように実現できるかを検証することで、業務にシステムを適応させることを根幹とする。②との区別を明確にするためには、図1で補足したようにAdapt to Standardとするのがより適切であろう。ERPのExtensibilityを活用することは②と同様であるが、重要な業務要件については追加開発する選択肢を除外しない。システムを熟知した経営者の能力や慧眼のトップダウンに依存することなく、業務を熟知したメンバーがボトムアップとミドルアップダウンで相互に啓発しながら、経営者を含めて社内を牽引していく(ITR Insight2019年夏号『デジタルトランスフォーメーションの推進プロセス』#I-319073)。
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