人的資本の情報開示は、近い将来に義務化が予定されており、上場企業は早急な対応を迫られている。本稿では、人的資本の情報開示で取り扱うべきデータの種類と必要となるシステムの機能要件を整理したうえで、システム化のコストを最小限に抑えるための方向性を考察する。
人的資本の情報開示とは何か
人的資本の情報開示は、2020年に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対する義務化を発表したことで、日本の企業にとっても緊結の課題となった。上場企業の情報公開において人的資本が重要と考えられるようになったきっかけは、2008年のリーマンショックである。その経験から、財務諸表だけでは企業価値を評価することはできないとの考え方が投資家の間で一般的となり、企業価値の評価に非財務情報を使用する動きが加速した。
企業にとってP/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)で公開される財務情報とは、いわば「お金」に換算された指標であって、それ以外で企業価値を測ることができる情報といえば、その多くが「人」に関わる情報となる。したがって、人的資本の情報開示は、日本においてもごく近い将来、全ての上場企業が対応を求められるようになると考えられる。実際、2022年6月に政府が発表した『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画』には、「人的資本等の非財務情報の株式市場への開示強化と指針整備」が盛り込まれており、早ければ2023年度から義務化される見込みである。
では、人的資本の情報開示は、具体的にどのような内容を開示する必要があるだろうか。現時点では、財務諸表のように細かく規定されたフォーマットがあるわけではなく、企業が利用可能ないくつかのガイドラインが存在するにすぎない。2022年8月に政府が公表した『人的資本可視化指針』では、既存のガイドラインで設定されている主な指標を6つのカテゴリに分類したうえで、「人材育成方針と社内環境整備方針につき、方針と整合的で測定可能な指標、その目標・進捗状況と併せて開示」するとしている(図1)。
出典:『人的資本可視化指針』(非財務情報可視化研究会、2022年8月)を基にITRが作成