デジタル変革に取り組む企業の経営計画において、企業価値の向上や創造がこれまで以上に重視されるようになってきている。さらに、企業価値は従来のP/Lベースの財務情報だけでなく、B/S資本を統合した指標や、非財務情報を統合した内容からも評価されるようになってきている。企業は、企業価値創造に向けた戦略や施策の過程を管理できるシステムの実装を検討し始めるべきである。
厳しさを増す投資家への対応と企業経営
日本企業が好調で成長性が高かった1980年代までは、日本型経営を手本として学ぶべきといった風潮が海外企業にあった。しかし、1990年代以降、日本企業の収益性やGDPの伸びがOECD(経済協力開発機構)諸国やG7各国に比べて低い、といった指摘が国内外の識者などからなされてきており、上場企業の株価も長期間低迷している。例えば日経平均株価は、1989年12月29日の3万8,957円をいまだに更新できずにいる。系列や事業会社および金融機関の株式持ち合いによる安定的ではあるが収益性の低い経営や、永年雇用を前提にした日本型の経営は、不確実性の時代におけるイノベーションが求められる時代に即していないという危機感が広く認識されているのではないだろうか。
日本を代表する企業の1社である東芝が、2021年11月12日に「株主価値向上を目指し、3つの独立会社に戦略的再編する」と発表したことは記憶に新しい。会社分割に至る直接の原因は、巨額で買収した原子力事業の不正会計問題や、先行き不透明感による自己資本比率の低下などにあるとされるが、「物言う株主」といわれるアクティビストの投資ファンドが株主の上位を占めるようになったことの影響も大きいといわれている。多くの事業・グループ企業を抱える複合企業(コングロマリット)の企業価値が、各事業の企業価値の合計よりも小さい状態を指すコングロマリット・ディスカウントは、東芝に限らず、米国を代表する企業であるGE社をはじめ、グローバル企業も直面している課題である。企業は資本や売上げの規模や損益計算書P/L単体から算出される収益性だけでなく、貸借対照表B/Sの資本・資産に対する収益効率から企業価値が評価されるようになってきていることを再認識する必要がある。上場し、株主資本を入れる企業は、資本の規模だけではなく、資本の質からも評価されることを経営システムの前提としつつ、持続的な成長と競争力強化を図っていかねばならない。
さらに、国際連合が掲げた持続可能な開発目標SDGsやESG(環境:Environment、社会:Society、企業統治:Governance)など、これまで企業価値を評価する直接の指標であった財務情報に加えて、非財務情報も外部から評価される時代になってきている。