労働および社会保険に関する行政手続きの電子申請が義務化されるに伴い、労務管理ベンダー/製品が注目されている。紙や押印のアナログ業務による労務管理が急速にデジタル化していく流れのなかで、企業は自社の労務管理業務のシステム化やベンダー/製品をどう活用していくかの方針を明確化していくべきである。
労務管理とはどのような業務か
労務とは何かを最初に確認しておこう。厚生労働省労働基準局監督課が公開する『やさしい労務管理の手引き』では、「労働者の契約上の債務は自分自身の心身を使った労務の提供である」と述べており、労働契約において給付すべき債務を短縮したのが労務と解釈できる。したがって、労務管理は民間・公共を問わず全ての組織体に存在する業務のはずである。しかし、厚生労働省が公開する組織図には、大臣官房直下の組織に人事課と総務課は確認できるものの、「労務」と明記された部署は存在しない。企業においても、労務部のように部として独立配置されるケースは少数派で、人事または総務部門配下の労務課、さらにその下位の労務係といったケースが多数派と見られる。こうした裏方的な位置づけになっていることが、労務管理そのものをわかりにくくしている。
実は、1968年に施行された社会保険労務士法でも「労務管理」を明確に定義していない。この法律は、労働および社会保険に関する事務を処理し、相談指導を行う社会保険労務士制度に関するものであるが、労働事務、労働法務、労働組合法務といった、雇用と就業に関わる複合的な事務全般を労務として位置づけているのではないかと思われる。労務は、雇用や就業に関わる必須業務であるが、人事や総務と混同されやすく、具体的な業務内容がイメージしにくい職務といえよう。また、雇用と就業は世界中の組織体に存在する業務であるが、各国の法制やビジネス環境の差異によって制度そのものが大きく異なり標準化も困難であることが、直感的な理解を妨げている側面もある。