この1年弱世界的に猛威を振るっているコロナ禍の影響から、多くの企業は次年度の事業収益予想の下方修正を余儀なくされた。今後の国内の経済情勢はどのように推移するであろうか。ITRが管理職を対象に実施したアンケート結果に基づいて、2021年以降の景況感を概観する。
コロナ禍による収益への影響
ITRは、2020年8月に年商1億円以上の企業の部長職以上(経営者、役員を含む)を対象に「デジタルビジネス動向調査」を行った。そのなかで、コロナ禍による事業収益への影響についての調査も行った。本稿では、その調査結果を紹介するとともに、2021年以降に予想される国内市場の景況感について概観する。まず、コロナ禍による事業収益の変化を見てみよう(図1)。本調査は、2020年8月20日から同月28日に実施したものであり、回答には当時の状況が反映されている。ただし、その後、東京への“GO TOキャンペーン”も適用されるなど、プラスの材料も出てきたことから、本原稿の発行時においては情勢は変化している可能性があるため、その点は念頭に置かれたい。
出典:ITR「デジタルビジネス動向調査」(2020年8月調査)
設問では、回答者の所属する企業の事業収益がコロナ禍によってどのように変化したか、調査時点の状況を尋ねた。複数事業が想定される場合は、回答者の企業が最も深く関わる事業について回答を得ている。この結果、「大きく拡大」ないしは「やや拡大」と回答したのは約17%にとどまり、8割を超える回答者が「やや減少」ないしは「大きく減少」すると見ていることが明らかとなった。国内市場において、コロナ禍の発生前は業績好調の例が少なくなかったが、緊急事態宣言を契機にマイナスに転じた企業が多いことが分かる。また、企業規模別に見ると、マイナスの影響は中堅・中小企業においてより色濃く表れており、企業規模が大きくなるに従って緩和されていることが読み取れる。コロナ禍でとりわけ大きなダメージを受けたのは、店舗を構える中堅・中小の小売業や飲食業である。超大手企業においては、事業ポートフォリオの調整やサプライチェーンの見直し、組織再編など収益低下を免れる各種の施策が遂行可能であり、ダメージを少しでも緩和できたと見られる。
一方、業種別に見ると、いずれの業種においても収益へのマイナス影響が色濃い。そのなかで、このダウントレンドの影響を比較的抑制しているのが、金融業、情報通信業である。金融業においては、特に証券業で業績悪化を免れる例が多く見られた。グローバル市場において日本の金融商品(投資信託など)は比較的信頼性が高い。つまり、いわゆる「有事の円買い」が進み、マイナス影響の回避につながった可能性がある。また、情報通信業も比較的好調な企業が多い。これは、Web会議や電子契約システムの導入が増加し、さらには自動化/無人化へ向けたITソリューションの需要が増したことが功を奏したと考えられる。
そして、市場期待の高まりは株価にも影響を及ぼした。「コロナ下の株価の期間上昇率を牽引した3テーマ」として、日本経済新聞(2020年5月27日付け朝刊)は、「DX・5G」「医療・健康」「巣ごもり消費」関連をあげている。デジタルやITへの投資意欲は、コロナ禍と相関関係を持つと見られる。ITRが2020年5月に発表した調査結果「コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査」を見ても、コロナ禍を契機に企業のIT投資が進んだことは明らかである。