デジタル技術を活用した新たな製品やサービスの利用価値を実感し、その利用が常態化していくと、過去に戻ることはなく、ついには、より多くの便益を得るために消費者自身が自らの消費行動を最適化するようになることがある。真に有益なテクノロジは、単に生活スタイルや仕事の仕方を変えるだけでなく、時に人々の価値基準や世界観を変える力を持つことを知っておかなければならない。
消費行動の変化
「消費行動の変化」は、一般社会においてもよく観察される事象であり、そのきっかけもさまざまである。多くは、何らかの環境変化が生じて、それに対する消費者の反応や心理状態によって消費行動の変化が引き起こされる。2020年7月1日より全国の小売店でレジ袋の有料化が開始したが、その日、店舗が販売・提供するレジ袋を購入して買い物をした客はわずか8.6%にとどまった(リサーチ・アンド・イノベーションによる2020年7月調査)。買物客の多くが自身の買い物袋(マイバッグ/エコバッグ)を持参するように、消費行動が変化したからである。
コロナ禍によって変化した消費行動の例も数多い。一般消費者の約4割が、外出自粛期間中にEコマースで「これまで購入したことがないものを購入した」と回答している(auコマース&ライフによる2020年6月調査)。また、緊急事態宣言解除後も外出に「不安を感じる」とする消費者は7割近くに上っており、現在も自粛傾向が続いている可能性がある。
消費行動の変化は環境変化によってもたらされるが、環境変化は自然に発生する不可抗力によるものだけではない。例えば、上記のレジ袋有料化なども自然環境保護のためにプラスチックごみを減らすための政策、つまり人為的なものだ。
フィンランドの首都ヘルシンキにおいて、一般消費者の利用が常態化しているMaaS(Mobility as a Service)「Whim(ウィム)」は、利便性の高い交通手段を市民に供給するサービスだが、目的はそれだけではない。同国では官民一体でゼロエミッションを推進しようとするモチベーションが高く、都心部における自家用車の減少が本来の目的のひとつだった。事実、ヘルシンキでは、Whimを推進・展開することでマイカー所有率を40%から20%に半減させることに成功している。
不可抗力による環境変化をトレンドとして捉えて、しかるべき対策を講じることは当然必要である。しかしそれと同時に、一般消費者の消費行動をビジョンとして描き、その目的に適した環境を構築するという戦略に目を向けることも重要だ。昨今は、IoT、AI、XRなどのスマートテクノロジによるビジネス革新が著しい。消費行動の変化を促すテクノロジとその影響力について理解しておきたい。