AIは、ニューラルネットワークによるアルゴリズムの活用などにより進化してきており、新たなエクスペリエンス向上にも寄与している。しかしながら原理的な限界も内在しており、丸暗記は得意であるものの、未知の事象に意思を持って適応することは当面できそうにない。AIのアルゴリズムやサービスを開発することが目的ではないユーザー企業においても、進化するAIをうまく活用するために、全ての従業員に対して基礎的なスキルの底上げを図りつつ、AI推進要員の強化をしていくべきである。
デジタル・イベントで確認されたAIの進化
コロナ禍による物理的なイベント中止に伴い、それまでイベントを活用してきた世界中の企業がWeb会議や動画配信などによるデジタル・イベントへの参画を余儀なくされている。デジタル・イベントは、開催者にとっても参加者にとっても長所と短所の両面があるが、音声認識技術や自動翻訳技術の進化を実感した参加者は多いだろう。例えば、YouTubeなどでライブ配信される動画は、ネットワークが通常の遅延程度であれば、自動字幕起こし機能で音声が文章化される。実際に、海外に出張してイベントに参加するよりも、聞き取りや理解が容易になったのではないだろうか。完璧な文字起こしがされていなくても、聞き取りにくい箇所や耳慣れない単語や用語などが、文字を通じた視覚を併用することで格段に認識しやすくなるからである。さらに、ライブ字幕ではなく録画の字幕起こしであればその精度はさらに高い。同時に、文字起こしされた会話は自動翻訳機能との連携により、マイナーな地域言語も含め多数の母国語に変換して確認できる。
こうした字幕や翻訳は、機械学習アルゴリズムによって自動生成されたものであり、品質にまだばらつきがあることは否めない。しかし、専門の翻訳サービスを動画にリンクさせてイベントを開催するのに比べて、その準備に要する時間とコストにおいて当然ながら優れている。さらに、参加者の母国語への翻訳だけでなく原語の字幕も提供することで、新たな顧客価値を創出できる。この自動字幕や自動翻訳機能は、今後、主要なWeb会議サービスの標準機能として拡充されるとともに、AIの自然言語処理や形態素解析のアルゴリズムはそのレベルをさらに向上させていくだろう。