デジタル変革に向けて要件が明確でないシステムやサービスの設計や企画におけるアプローチとして、デザイン思考が注目されている。また、短期間で反復を繰り返しながらシステムを完成させるアジャイル開発も、デジタルイノベーションに適した手法として活用が進んでいる。そのいずれにおいても重要なのは、システムの設計・開発における急所や問題解決の考え方を体系化したシステム思考であり、システム思考とデザイン思考は表裏一体で活用していくべきである。
システム思考とはどのようなものか
システム思考(System Thinking)とは、問題解決の対象をシステムとして包括的に認識しつつ、システムに内在する複雑性やトレードオフに対処しながら、本来目的とする成果を達成するための考え方である。しかし、システム思考については、誤解されているケースが多いと見られる点が3つあげられ、以下にそれらの誤解を順に解いていきたい。まず、1つ目は、システム思考は必ずしもプログラムや情報システムを開発するためだけのテクニックではないという点だ。システム思考の歴史は古く、コンピュータの発展とほぼ時期を同じくして注目され、ベンダーや標準化団体などが策定するシステム化の方法論や、エンタープライズ・アーキテクチャ、そしてオブジェクト指向やアジャイルなどのプロセスや手法にもそのエッセンスが組み込まれている。こうした方法論では、要件、機能、データ構造などを定義するため、主に下流寄りの工程における手法やドキュメンテーションでシステム思考の活用が重視されてきた傾向にある。そのため、システム思考はシステム開発に限定したものと捉えられがちである。
誤解されやすい2点目は、システム思考は、必ずしも漠然とした全体最適性を指向するものではないことである。例えば、最適化とは、可能な限り最善の結果を目指すために問題を解消(Solution)することであり、問題そのものを除去する解消(Dissolution)とは区別する。具体的には、それぞれに相反する要素(品質、コスト、納期など)が複数ある場合、要素間のトレードオフを解消できれば問題そのものの消滅を図る。また、完全な解消が難しい場合は、所与の目的を達成するために最も重視すべき要素を選択する、または重みづけを高くして論理的・数学的な思考に沿って最適化を図る。言い換えれば、曖昧な全体最適ではなく最善の妥協パラメータを明確化するアプローチともいえよう。