本格的なデジタル時代に向けた転換期にある今日においては、最新のテクノロジ・トレンドばかりに焦点が当てられがちだが、そうしたテクノロジを提供する立場にあるIT部門やITベンダー、使い手であるエンドユーザーの側も、日常の意識や行動様式、価値観などを変革することが求められる。そこで、ITRでは、デジタル時代の牽引者に求められるマインドセットを取りまとめた。本稿ではその概要を紹介する。
デジタル変革に不可欠な人の意識改革
デジタル技術によって社会・産業・企業活動に変革をもたらすことを意味するデジタル変革(デジタル・トランスフォーメーション)においては、とかく技術的なキーワードが話題となる。確かに、AI、IoT、ビッグデータ、クラウド、5Gネットワークといった技術の実用化は急ピッチで進んでおり、そうした技術が人々の生活やビジネスを大きく変化させる触媒となることは疑いがない。しかしながら、そうした技術から価値を引き出し、変革にまでつなげる役割を担うのはあくまでも「人」である。その意味で、デジタル変革とは、人の意識の変革が伴って初めて成果をもたらすと考えることができる。
ITRでは、2019年8~9月に実施した「IT投資動向調査2020」において、デジタル変革に関する調査項目を新たに追加した。その結果、「デジタル技術を活用した新製品・新サービスの創出に着手している」とした企業は全体のわずか12%にとどまり、国内企業においてデジタル変革がいまだ緒に就いたばかりの状況であることが明らかとなった。
そして同調査では、デジタル変革の阻害要因が、技術的な問題よりもむしろ人の意識の問題にあることも示された。同調査の対象者は企業のIT投資・IT戦略の策定にかかわる役職者であるが、有効回答(2,812件)のうち、デジタル技術を活用した業務やビジネスの変革を「全社レベルで取り組むべき最重要課題」と考える人の割合は27%であった。また、「経営戦略の中でデジタルビジネスのビジョンや方針が位置づけられている」とした割合も25%と、4分の1にとどまった。この結果からは、企業のIT責任者が、デジタル変革の重要性をある程度認識しつつも、具体的な取り組みを推進するという当事者意識が低いことがうかがえる。