2018年6月、経済産業省より企業の戦略的IT利活用の促進に向けた取り組みの一環として「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」が公表された。本稿では、AI技術を利用したソフトウェア開発での契約およびAI技術の利用サービスの契約という2つの視点で、契約の特徴や特に重要になる合意事項に関する考察を行うとともに、国際的な契約での留意事項についても解説する。
AI開発の契約
2018年6月15日、経済産業省により「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(以下、「ガイドライン」)」が公表された。ガイドラインは、AI編とデータ編で構成されており、前号(ITR Review 2018年10月号『AIの利用に関する契約ガイドラインの要点』#R-218102)ではガイドラインのAI編(以下、「AI編」)」から主にAI技術の4つの特性と探索的段階型の開発方式について紹介した。本稿ではAI編から、AI開発における契約形態の特徴と押さえておくべき重要な合意事項を国際的取引のケースも含めて、解説する。
まず、AI技術を利用したソフトウェアの開発(以下、「AI開発」)における契約形態は、学習済みモデル生成を行う場合、探索的段階型の開発方式の全ての段階において準委任契約が適切であるとしている点があげられる。これは、従来のソフトウェア開発では、段階に応じて準委任契約と請負契約が適切とされてきた(ITR Review 2018年2月号『システム開発の契約の在り方』#R-218024)ことと異なる見解が示された。つまり、システム開発の企画段階や要件定義段階は準委任契約が適切であることに変わりないが、設計や開発段階においては、これまで請負契約を採用することが一般的であったのに対し、AI開発では準委任契約が推奨されている点に大きな違いがある。
この背景には、AI開発における設計や開発段階は、 前号で「探索的段階型」と述べた通り、契約締結時までに成果物である学習済みモデルの仕様や検収基準を確定させることが難しいことが影響している。AI開発では、成果物として何が出来上がるかを事前に予測し合意することが困難であり、結果的に請負契約の締結に至らないと考えられる。なお、アセスメント段階とPoC段階は、学習済みモデル生成の前工程であり、生成の実現可能性を検証することが目的であるため、そもそも学習済みモデル生成を成果物とする請負契約を締結することは難しい。