メール、カレンダーを中心に、情報の交換・共有、従業員同士の共同作業などを支援するコラボレーション・スイートは、近年、飛躍的にそのスコープを拡大している。本稿では、大手ベンダーの戦略を紹介するとともに、コラボレーション基盤の現状と今後の方向性について考察する。
拡大するコラボレーション・スイートのスコープ
メール、カレンダー、ファイル共有といった情報共有ツールは、企業の従業員が日常業務において利用する頻度が最も高いアプリケーションのひとつである。かつては、社内(とりわけ部門内)での情報共有を主目的としていたことから「グループウェア」と呼ばれるのが一般的であったが、昨今では利用者の対象が社内から社外へ、また用途も情報の連絡・通知や完成文書の共有に加えて、合意形成や共同作業などへとそれぞれ拡大している。そのため、ITRでは、そうした情報共有のための支援機能を統合的に提供する製品・サービスを総称して「コラボレーション・スイート」と定義している。
ここ5年ほど、コラボレーション・スイートの進化は、「コンポーネントの拡張」「クラウド化」「モバイル対応」という3つの側面からもたらされてきた。また、Google社が先鞭を付けた「クラウド化」は、その後すっかり定着し、今や売上構成比率では、SaaS型がパッケージ型を大きく上回る結果となっている。スマートフォン、タブレットの普及に伴い、主要機能をモバイルアプリ経由で提供する「モバイル対応」も、今日では非対応の製品を探すのが難しいほど一般化した。
なかでも、近年において顕著なのがコンポーネントの拡張である。それまで単体製品として提供されてきたグループチャットや社内SNS、Web会議、オンラインファイル共有などが標準機能として取り込まれ、ユーザーに対して情報共有の選択肢を一気に広げることとなった。参考までに、今日のコラボレーション・スイートが提供している主要コンポーネントをコラボレーションの範囲や用途別に整理した(図1)。必ずしも単一の製品・サービスで全てのコンポーネントが提供されているわけではないが、ベンダー各社の戦略を見ると、概ねこうしたコンポーネント群を自社開発または他社製品との連携によってカバーする方向性を示している。いずれにせよ、メールとファイル共有が中心だったかつての情報共有システムと比較すると、大きく様変わりしていることが確認できる。
このように機能が拡張されている背景には、従業員個々の就業形態の多様化や、コミュニケーション・ロスを最小減に抑えて業務効率を高めたいとする現場の強いニーズがある。これからの時代においては、こうしたコンポーネントを使いこなすことがスムーズな業務運営を遂行するうえで重要な要素になると考えられる。
出典:ITR
コラボレーション・スイートに求められる役割が拡大するなかで、製品・サービスを提供するベンダーの勢力図にも変化が生じている。象徴的なのがMicrosoft社の躍進である。同社のクラウドサービスであるOffice 365は、矢継ぎ早に新機能を取り込み、それに伴って多くの新規ユーザーを獲得している。ITRの市場調査でも、2017年度の売上実績で国内コラボレーション・スイート市場のトップシェアを獲得しており、2018年度も市場占有率がさらに高まる見通しだ。他のベンダーの中では、Google社、サイボウズが健闘しているものの、かつてのリーダーであったIBM社はクラウド化の遅れが響き苦戦を強いられている。富士通や日立製作所などの国産ベンダーは市場から事実上撤退を余儀なくされるなど、明暗が分かれる格好となっている。