デジタル技術を活用したビジネス革新やデジタルビジネスの創出において、オープンイノベーションや他社との共創の重要性が叫ばれている。本稿では、ユーザー企業とITベンダー企業との協業を中心に、その必要性と成功への留意点を整理したい。
なぜ共創が求められるのか
従来の一般的な企業IT(エンタープライズIT)の領域では、SI企業などのITベンダーは、ハードウェアやソフトウェアなどモノの購入先であり、ヒトによる役務の業務委託先あった。正確かつ確実にデータを記録するSoRシステムやそれを支えるITインフラの構築・運用においては、要件を明確にし、RFPを作成してベンダーから提案を得て、選定するというプロセスが有効に機能し、ユーザー企業とITベンダーは明確な役割分担に基づく受発注の関係が成り立っていたためである。
一方、各業種の本業である業種特化系・事業系を含むビジネスITや、新規事業や新業態を創出するデジタルビジネスの領域では、ビジネス環境の変化に迅速に対応できるSoEシステムの構築や、IoTやAIなどの不確定要素が多い新規技術の活用が前提となるため、初期段階で要件を確定しにくい案件となることが多い(ITR Insight 2015年夏号「SoEのためのアプリケーション開発指針」 #I-315072)。したがって、この領域では、企画段階からITベンダーと協力して、アイデア創出と実装を短いサイクルで回し、段階的にイノベーションを実現していく協業のスキームが必要となる(ITR Insight 2015年夏号「ビジネスIT領域でのイノベーションの創造」 #I-315071)。
もちろん、ITベンダーに頼ることなく、アイデア創出から試作・実装、継続的改善まで全て自前でやり抜くという選択肢がないわけではない。しかし、多くの企業ではIT人材が不足しており、特に開発実務を行うための技術スキルが空洞化しているケースが多い。アジャイル開発やリーンスタートアップの手法に慣れている技術者も少なく、AIやIoTなど革新の著しい技術を常に習得し続けることも困難な状況といえる。