デジタル社会を見据えてあらゆる企業がビジネスモデルの転換を進めているが、それによりデータやソフトウェアといった自社固有のデジタル資産の重要度が増すことが予想される。デジタル資産を活用し、ビジネスを収益化するためにオープン&クローズ戦略を推進することを推奨する。
オープン&クローズ戦略とは
オープン&クローズ戦略にはいくつかの定義があるが、経済産業省の発刊する「2013年版ものづくり白書」によれば、「知的財産のうち、どの部分を秘匿または特許などによる独占的排他権を実施し、どの部分を他社に公開またはライセンスするかを自社利益拡大のために検討・選択すること」とある。つまり、知的財産のクローズ化とオープン化を使い分ける知財マネジメントにおける戦略のことである。なお、知財マネジメントでいう知的財産とは、特許権、意匠権などの権利化された経営資産だけではない。権利化されてない技術やノウハウなど事業活動に有用な情報を含む広義の概念を指す。
セイコーの創業者の服部金太郎氏は、零細企業であった創立期に先駆的な他社の工場を視察に訪れた。同伴した技師長の吉川鶴彦氏がそこで製造技術のヒントを得た事が、掛時計の量産を導き、精工舎の躍進のきっかけになったという。吉川氏の才覚によるところが大きいとはいえ、視察を許可していなければ、精工舎は先進工場の競合にならなかったかもしれない。技術やノウハウをいかに守るかといったマネジメントの重要性が示唆される。
日本は特許大国といわれ、知的財産の管理に前向きなイメージがある。しかし、日本が保有する数多くの特許は必ずしもそれに見合った業績や国益を生み出していない。取得件数は、首位が日本(約30万件)、二位が米国(約26万件)である(2014年)が、国別の収支である知的財産権などの使用料については首位が米国(約1260億USD)、二位が日本(360億USD)と大きく水をあけられるのが現状である(2015年、グローバルノートより)。特許が直ちに競争優位をもたらすのではない。米国が日本や他国を引き離す要因は、オープン&クローズを重視した知財マネジメントにあると言われている。
欧米の企業が採ってきた戦略事例には以下のものがあげられる(図1)。クローズ戦略だけでなく、オープン戦略も推進されており、必要領域に対しては、情報開示や標準化が積極的に行われている。
出典:経済産業省「2013年版ものづくり白書」