極めて大量にIoTデバイスを利用する場合、デバイスとの通信費用がIoTシステムのスケーラビリティに大きな影響を及ぼす。近年、従来の通信サービスに比べて飛躍的に安価なIoT向け通信規格/サービスが登場しており、その技術/ビジネス動向を注意を払い、最適な選択を行うことがIoTシステム成功の近道となる。
ITR Insight 2016年秋号「IoTを利用したイノベーション創成」(#I-316101)において、IoTシステムでは急激に扱うモノの数やデータの種類が増えるため柔軟かつ迅速な「スケーラビリティ」が要求される、と書いた。検証用システムや少数顧客に対するシステムがビジネス拡大に適応できないような設計になっている場合、IoTシステムの再構築が必要となる。このようなシステム・アーキテクチャでは、IoTで成功を収めることはできない。IoTシステムのアーキテクチャが柔軟かつ迅速にスケールアップできるかどうかがIoT成功可否の重要なポイントとなる。
IoTシステムのスケーラビリティを左右する最も重要な要素は、そのシステム・アーキテクチャである。マイクロサービス・アーキテクチャのようにいつでもサービスの入れ替えや拡張が可能なアーキテクチャはスケーラビリティ確保の重要なポイントである。しかし、いくらアーキテクチャが十分なスケーラビリティを持っていたとしても、スケールを大きく拡張する際にIoTシステムへの追加構築費用や運用費用も大きく増加するようなシステムでは、そのIoTシステムはスケーラビリティを備えているとはいえない。
IoTシステムにおいて、システムがスケールする際の費用増加に注意すべきポイントはモノ(デバイス)とIoTシステムとの通信費用であり、デバイスそのものの購入費用である。図1に、IoTシステムにおける通信サービス単価とデバイス数が通信費用全体に及ぼす影響を示した。ここでの通信単価とは、ITR Review 2016年11月号「IoTにおけるネットワーク設計指針(前編)」(#R-216114)の図2において「無線WAN/無線MAN/特定小電力無線」と記載したネットワークの通信費用を指している。デバイス1台当たりの通信費用が月額500円の場合、1千台で年額6百万円、10万台で60億円になる。これが、年額100円の場合、1千台で年額10万円、10万台でも1千万円に抑えられる。
このようにデバイス1台当たりの通信費用は、スケール拡大した際のIoTシステムの運用費用に大きな影響を及ぼす。同様に、デバイス1台当たりの初期費用(購入費用)もスケール拡大する際のIoTシステムの追加構築費用に大きな影響を及ぼす。いくらスケーラビリティに優れたアーキテクチャであっても、デバイスの通信費用と購入費用が非現時的な金額になれば、スケールできないのである。