PDCAは多くの事業活動で利用されてきた管理手法であるが、技術革新やトレンド趨勢が激しい現代の市場環境におけるビジネス開発に適用するうえでは、必ずしも常に有効な手法とはなりえない。先行きが不透明ななかでは、市場の不確実性を前提とした新たな手法によってビジネス開発の成功確度を高めることが求められている。
PDCAサイクルの功罪
事業活動における管理業務において、PDCAサイクルを回すことは極めて一般的であり、常識的なことと考えられている。そのため、企業が新製品のリリースを企画したり、ITベンチャーが新規ビジネスの立ち上げを模索したりする、いわゆるビジネス開発の現場においても、その是非を疑うことなくPDCAサイクルを適用する例は多い。PDCAは、立案-実行-評価-改善の段階を繰り返すことによって継続的な業務改善を図る手法といえる。闇雲に突き進むのではなく、一定期間を経た評価を通じて実施体制を省みることによって、能動的に修正・改善を図ろうとする管理手法である。
PDCAでは、一般的に、年次(あるいは半期・四半期といった比較的長周期)で評価サイクルを回すこととなる。これは、安定軌道を描いている事業やサービスに適用する時、あまり違和感はない。しかし、2000年頃のIT革命以降、さまざまな物事のスピードが加速したなかで、年次評価がそぐわない場面も増えてきている。技術革新の頻度が高い、トレンド趨勢の移り変わりが早い、経済情勢の影響を受けやすい、といった特性を持つ事業領域においては、既存ビジネスにおける迅速な方針変更や柔軟な新規ビジネス開発が不可欠である。それには、評価サイクルの高頻度化や環境変化への追随性といった点こそが優先されるべきであり、ゆえに従来型の長周期なPDCAの仕組みが果たして有効かとの疑問が浮上している。
特に日本は戦後復興期より高度成長とバブル経済を経て、比較的長期にわたるマスプロダクションの恩恵を受けてきた。長らく売り手市場に君臨してきた成功体験からすれば、現在のように環境変化に富み、成功確度の低い市場は甚だ違和感があるように映るかもしれない。一例をあげれば、アパレル業界では新商品をリリースするにあたって、調査-企画-試作-量産-販売といったプロセスを実行するのに、数ヵ月を要していた。しかし、消費者の嗜好性が著しく変化する現代の要求に合わせて、短期少量生産により数週間というリードタイムを実現する企業も出てきている。これまで常識であったといえるPDCAは、フレームワークそのものの有効性、あるいは年次評価ベースでの改善活動といった管理方式の妥当性を含めて、今一度見直す余地があるのではないだろうか。