クラウドサービスは初期費用なしに迅速に試用開始できるため、企業IT部門はもとよりユーザー部門でも積極的にスモールスタートで導入する傾向が強い。しかし、事前に十分に検討することなくスモールスタートすることは、「単なる思いつきでとりあえず始めて後から考える」と同義である。事前に明確な選定戦略や方針を持ったうえで試用開始することが重要である。
クラウドの登場によるスモールスタートの乱立
メインフレームからのダウンサイジング(オープン化)が始まった時代から「スモールスタート」の手法が多用されてきた。UNIXやWindows製品はユーザー数やシステム規模が小さければ比較的安価な費用で導入できるものが多かった。そのため、まず少人数や小規模で試用を行い評価したうえで本格導入の是非を判断する、という「スモールスタート」手法は企業にとって受け入れやすかったのである。
オンプレミス・システム(自社所有型システム)でスモールスタートを行う場合は、サーバやネットワーク機器のハードウェア購入やインフラ構築などの作業が必要で、大規模システムに比べて少額といえども、ある程度の初期費用や準備作業が必要であった。そのため、十分な事前検討なしにスモールスタートに踏み切る企業は少なかったといえる。しかし、クラウドサービス(SaaS/PaaS/PaaSなどのパブリッククラウドのこと)が登場し、状況は一変した。ハードウェアやソフトウェアの調達が一切不要で、インフラ構築の必要もなく、思いついたらすぐに試用できるクラウドサービスは、スモールスタートとの相性が非常に良い。
クラウドサービスを検討している際に、ベンダーから「スモールスタートで行きましょう!」という提案を受けたユーザー企業は多いはずだ。また、経営者や事業部門が「このクラウドを使ってみたい」と言って、試しに使い始めたケースも多い。ITRの顧客企業の多くが、このような経緯でクラウドサービスを利用開始した経験を持っている。