1. TOP
  2. レポート・ライブラリ
  3. パブリッククラウド活用指針 - ビジネス視点によるクラウド使い分け基準 -


ITR Review

コンテンツ番号:
R-214122
発刊日:
2014年12月1日

パブリッククラウド活用指針

ビジネス視点によるクラウド使い分け基準

著者名:
甲元 宏明
パブリッククラウド活用指針のロゴ画像

多くの国内ユーザー企業がパブリッククラウドとプライベートクラウドの使い分け基準を策定しているが、それらの多くはIT部門の事情だけで策定されている。クラウド・コンピューティングでビジネス成果を獲得するには、ビジネスの視点でクラウドをどのように活用するのかといった観点で使い分け基準を再考する必要がある。

これまでのクラウド使い分け基準の問題点

国内ユーザー企業におけるパブリッククラウドへの注力度が増してきており、多くのIT部門において、パブリッククラウドとプライベートクラウドの使い分け基準が策定されている。現在よく見られる使い分け基準を図1に示した。

図1.見直しが必要な従来のクラウド使い分け基準

図1.見直しが必要な従来のクラウド使い分け基準
出典:ITR

最もよく採用されるのが、ミッションクリティカル性で判断するというものである。ミッションクリティカルなシステムはプライベートクラウド、非ミッションクリティカルなシステムにはパブリッククラウドという判断基準である。しかし、多くの企業において、「ミッションクリティカル」の定義(例えば、稼働率99.99%など)は設定しておらず、また「ミッションクリティカル」の意味そのものが曖昧であり、「処理が重い」「アクセス数が多い」といったユーザー部門やビジネスの視点ではなく、IT部門の視点によってミッションクリティカルを捉えていることも少なくない。また、ミッションクリティカル性の高いシステムといえば、銀行における勘定系システムを想起させるが、このような極めて処理性能とレスポンスの高さが要求されるシステムを多くの国内ユーザー企業は持っていない。現時点でシステムが短時間でも停止した場合にエンドユーザーからのクレームが殺到するものとしては、電子メールシステムがあげられるが、GoogleAppsやOffice 365のようなパブリッククラウド・ベースの電子メールシステムを採用している国内ユーザー企業は多い。

世界最大のEC企業であるAmazon.com社が大きな成功を収めているが、そのビジネスを支えているシステムの基盤がAWS(IaaS)であることを国内ユーザー企業はよく考える必要があるだろう。

「ミッションクリティカル」に次いでよく採用されるクラウド使い分け基準は、「コア/非コア」なるものである。「自社ビジネスのコアである業務はプライベートクラウドで、それ以外はパブリッククラウドで」という方針である。ここでも「コア」の定義が極めて不明確であることが多い。製造業の場合は、生産管理またはサプライチェーン、流通業だと物流が「コア」に相当するのであろうが、本来の「コア」の意味は「コア・コンピタンス」であり、競争優位の源泉となるビジネスモデルやビジネスプロセスのことを指す。「コア/非コア」を使い分け基準とする企業に、その企業のコア・コンピタンスがどのようなビジネスモデル/プロセスであるのかを尋ねた際に、明快な回答が返ってくることは稀である。自社のコア・コンピタンスがどこにあるのかは、社員によって考えがばらばらであることが一般的である。このような状況で、「コア/非コア」の判断が明確にできるとは思えない。前述のAmazon.com社のコア・コンピタンスは間違いなく同社のECシステムにあり、そのシステムが稼働しているのはパブリッククラウドである。

「セキュリティ」レベルによって使い分けをする企業も多い。しかし、自社のセキュリティに対する要求仕様を明文化できるユーザー企業は極めて少ない。要求仕様が不明確なものに対して、明確な判断ができないのはいうまでもない。それ以前に、パブリッククラウドのほうがプライベートクラウドやオンプレミス・システムよりセキュリティレベルが低いと考える企業が多いが、それは真実とはいえない。ユーザー企業が構築したシステムのセキュリティレベルと、パブリッククラウドをビジネスとして常に種々の脅威と戦っているクラウド事業者のセキュリティレベルを冷静に比較すれば、後者の方が優れているであろうことは自明であろう。金融・保険業界やセキュリティ業界におけるパブリッククラウド採用事例も種々公開されていることから、パブリッククラウドに根本的なセキュリティ問題があるとはいえないのである。

データが社外に保管されることを嫌う企業が、パブリッククラウドを避けることも多い。しかし、それらの企業の多くは、社外データセンターを利用しており、現実には社外環境にデータを保管している。しかし、パブリッククラウドと社外データセンターの本質的な違いがないことを自社経営層に説得できるIT部門も少ないのが実情である。

ここで述べてきたように、これまで国内ユーザー企業で採用されていたクラウド使い分け基準には根拠が曖昧なものが多く、クラウドを使い分けるのに有効な基準とはいえない。

ITR 著作物の引用について

ITRでは著作物の利用に関してガイドラインを設けています。 ITRの著作物を「社外利用」される場合は、一部のコンテンツを除き、事前にITRの利用許諾が必要となります。 コンテンツごとに利用条件や出典の記載方法が異なりますので、詳細および申請については『ITR著作物の引用ポリシー』をご確認ください。

TOP