SAS Institute(SAS)社は、統計解析用ソフトウェアのトップベンダーとして広く認知されているが、同社の製品に対しては高機能であるが利用者に高度なスキルを求める専門家向け製品といったイメージが持たれていた。しかし、同社はここ数年利用者層の拡大のために、ユーザー・インタフェースを改良し、Hadoopやクラウドといった最近のIT動向に対応すべく製品戦略の転換を図っている。
市場変化への対応を開始したSAS社
SAS社は毎年産業アナリスト向けのセミナーを米国と欧州で開催している。2014年6月にスイスで開催されたセミナーでは欧州とアジア地域の産業アナリスト38名とCEOであるJim Goodnight氏をはじめ、十数名の主要なマネージメントが参加した。本稿ではこのセミナーで公開された情報を基にSAS社の最新動向を紹介する。
同社は競争が激しいソフトウェア業界においてユニークな存在として知られている。1976年の創業以来増収を継続しており、最近の5年間のCAGR(年平均成長率)は6%を維持し、リーマンショックでも大きな影響は受けなかった。2013年末時点で、売上高30.2億ドル、従業員数13,764人とソフトウェア・ベンダーとしては大手の部類に入るが、現在も非上場企業である。製品は社名の由来となったStatistical Analysis Systemが意味するように、統計解析ソフトウェアを起点としており、高度な統計解析を必要とする金融業や政府・自治体といった公共において数多く導入されている。業種別の同社の売上推移を見ると、現在でも金融業と公共を主要な市場としていることに変わりはない(図1 )。
これまで、競合他社が処理性能や情報の視覚化と使いやすさの向上をアピールポイントにするなかで、同社の製品はより高度な分析機能と業種や業務に特化したコンサルティングサービスを併用した販売方法により、高機能であるが高度なスキルが必要な専門家向け製品であるというイメージが持たれていた。しかし、ここ数年はビッグデータが注目されたことにより、データ分析に対する重要性と利用範囲の拡大という市場の変化を受けて、製品戦略を変化させている。
出典:SAS社の年次報告書を基にITRが作成