「経営者が理解すべきITアーキテクチャ」に続いて、都市計画の歴史を概観しながらそのポイントを押さえることで、ITアーキテクチャの設計に関わる人材が吸収すべき原則について述べる。都市計画を学ぶことで、ITアーキテクチャに対する理解をより深めることができるとともに、次世代のシステム化構想を担う人材育成の素材としても活用できる。
都市計画の歴史概観とITアーキテクチャ
全社のアプリケーションやインフラ、さらにグループ/グローバルに拡大した全体システムの理想像を描くITアーキテクチャの構想は、まさしく都市計画が持つ、巨大、複雑、創造といったイメージがよく似合う。特に、ITに対する専門知識を必ずしも持たない経営者に対してITアーキテクチャの重要性を理解してもらうには的確な比喩であり、ITアーキテクチャのイニシアティブを社内で浸透させるにも説明がしやすい。しかし、ITアーキテクチャの設計そのものを担うIT部門は、都市計画をもう一段掘り下げて理解すべきであり、長い歴史を持つ都市計画から学べる点は多い。ただし、その掘り下げがあまり詳細に過ぎれば、かえって本質を見失い、差異だけがクローズアップされることにもなりかねないため、あくまで概観で都市計画の歴史を振り返るとともに、ITアーキテクチャの設計で吸収できる内容に絞る。
そもそも都市計画の起源は、いつ頃まで遡るのであろうか。紀元前3000年頃に、ナイル、チグリス・ユーフラテス、インダス、黄河の四大河川流域における都市文明に都市計画の発祥があるとするのが通説のようである。そして、ギリシャやローマ時代を経て中世に至る都市国家の建設において、現在の都市計画の原型が形づくられていったようである。ここまでの時代を中世とすれば、中世における都市国家の建設から現代のITアーキテクチャが吸収できる点は、実はあまりない。その理由は、中世までの都市国家の人口は多くても数万までであり、その時代においては巨大で複雑であったかもしれないが、現代の基準からすれば小規模であり都市というよりは、地区や街区に過ぎないからである。システムに例えれば、単一の部門システムを設計するのに等しいといってもよいだろう。言い換えれば、都市計画ではなく、アーキテクチャの語源ともなった建築学の世界観で捉えることができる規模であるといえるだろう。現代に連なる都市計画の巨大、複雑といった特徴が明確化するのは、やはり18世紀の産業革命を境とした近代から現代にかけてであろう。