グループ全体を視野に入れたITガバナンスの確立は重要なIT戦略課題のひとつとなっているが、グループ全体のメリットとグループ企業個別の事情を両立させることは容易ではない。グループ各社の経営者や分散したIT担当者との間でコンセンサスを得ながらITガバナンスの強化を推進するためには、その意義と目的を共有することが第一歩となる。
立ちはだかる利害の不一致
グループITガバナンスの構築および強化は、多くの大手企業にとって重要課題であり、これまでもグループITガバナンスに関する評価手法(ITR Review 2012年10月号「グループITガバナンスの成熟度評価」#R-212104)や構築プロセス(ITR Insight 2012年夏号「グループITガバナンスの構築」#I-312072)について数多くの分析を紹介してきた。一方で、自社グループのITガバナンスの現状を把握でき、ガバナンスの構築プロセスが理解できたものの、実際にグループ各社を巻き込んでガバナンス強化への取り組みを推進することに困難を感じているという声が多く聞かれる。
本社IT部門やグループ各社にITサービスを提供するグループ内情報システム会社では、ガバナンスの欠如がシステムの複雑化やITリスクおよびコストの増大の原因となることを理解しており、ガバナンスの必要性や重要性を強く認識している。一方で、グループ企業の経営者や各社のITスタッフは、自社の便益を優先するために過度な統制を拒む意識が芽生えがちである。こうした利害関係者の間で、コンセンサスを得ながらITガバナンスの強化を推進するためには、強力なリーダーシップと粘り強い啓発が必要となる。リーダーシップを発揮するためには、本社の経営者やグループCIOによる強いコミットメントが必要となることから、まずは、自社の経営層に対して、なぜグループITガバナンスが必要であるかを、的確に説明できなければならない。
また、必ずしも利害が一致しないグループ各社の経営者やITスタッフからの協力を取り付けるためには、すべての関与者の間でグループITガバナンスの意義と目的について、共通認識を形成することが第一歩となる。さらに、ITガバナンスの意義を考える前に、そもそもグループ経営のシナジーについて明確なイメージを持つことが求められるが、これには①ノウハウの共有、②有形資産の共有、③交渉力の集中、④戦略の調整、⑤垂直統合、および⑥合同事業の立ち上げの6つがあげられる(ITR Insight 2003年冬号「グループ経営時代のIT組織戦略」#I-303011)。
これを踏まえて、グループITガバナンスの推進にあたって、まずは、原点に帰って自社グループにおけるITガバナンスの意義を定義することが求められる。ここでは、グループITガバナンスの意義を①コスト低減/投資抑制、②グループとしての業務の効率化、③リスクの軽減と回避、④人材とノウハウの有効活用、⑤新規付加価値の創造への布石の5分野10項目で整理し説明する(図1)。
出典:ITR