IT投資動向調査では、3年連続で最も重要なIT動向に「IT基盤の統合・再構築」が選ばれた。ビジネス環境の変化に対応したシステムを迅速に提供するためには、最新の技術を利用したIT基盤の再構築が必要となる。しかし、IT基盤に関連する製品やサービスの投資を見ると、仮想化とハードウェアが中心となっている。本稿ではERPベンダーのIT基盤の変化を例として、ユーザー企業におけるIT基盤の再整備の次のステップを考える。
IT投資動向調査に見るIT基盤の動向
IT投資動向調査の結果を見ると、ここ3年間でのIT戦略上の課題テーマは、「売上増大への直接な貢献」「業務コストの削減」「ITコストの削減」の3項目が常に上位3位を占めており、多くの企業では、より効率的にITを活用することで、コストを下げつつビジネスの効率を上げることを目指そうとしていることがわかる。さらに、主要なIT動向に対する重要度では、3年連続で「IT基盤の統合・再構築」が1位となっている。これらのことから、従来のIT基盤上にアプリケーションを新たに構築したり、機能を追加したりする対症療法的なアプローチでは、ビジネス環境の変化に迅速に対応することがもはや困難となっていることがうかがわれる。
では、企業はどのような製品・サービス分野に投資を行っているのかを見てみる。図1に示したのは、IT投資動向調査で、各製品・サービスの項目に対して2012年度に前年度よりも投資を増額したとする企業の割合を各分野で平均値をとったものである。これを見ると、「インフラ/ハードウェア分野」の製品・サービスを増額させた企業の割合が他の分野よりも高く、「OS/ミドルウェア分野」が最も低い結果となっている。この結果をIT基盤の再構築という観点で見た場合、ハードウェアを中心とした投資が現在も主流であり、ミドルウェアへの投資には積極的ではないことがうかがわれる。確かに、システムの処理性能の向上を考えた場合、ハードウェアの更新はミドルウェアの更新に比べアプリケーションへの影響が少なく、短期的には効果的な方法である。しかし、最新のハードウェアや仮想化技術の導入によってハードウェアの運用効率を向上させることができたとしても、サイロ化している既存システムのデータやプロセス構造を整理統合するまでには至らない。
出典:ITR
データやプロセスを統合整理するためには、ミドルウェア環境の整備が必要となるが、企業はIT基盤整備の次のステップとして、ミドルウェア環境の整備に着手するのであろうか。残念ながら、「SOAによるシステム構築」や「マスタデータの統合」などの実施状況はこの5年間で大きな進展はなく、「SOA関連ツール」や「データ管理(RDBMS)」が投資額を増加する製品・サービスの上位にランクされたことはない。つまり、ここ数年多くの企業ではミドルウェアに対して戦略的な投資を行っていないことを意味する。確かに、ミドルウェアに対して、修正や変更を加えることは、既存アプリケーションへの影響が大きくリスクも生じる。しかし、企業が求めるビジネス環境の変化に迅速に対応が可能で、かつコスト削減も可能とするITシステムを実現するためには、ミドルウェア環境の整備にも着手しなければならない。