環境変化の予測が困難なカオスな状況において、納得感のある意味づけは、ビジネスパーソンが向かうべき道を照らす羅針盤となる。「BANI」といわれる混沌とした時代において、戦略方針を周知・定着させようとする時、センスメイキングは当事者意識を増幅させ、あるべき方向に導くアプローチとなりうる。
センスメイキングとは
センスメイキングは、しばしば「意味づけ」と訳されるように、行動や判断の方向性を定めるために、出来事や情報を解釈し、意味を見出すプロセスのことである。そこでは、不確実な事象や曖昧な情報を前提とすることが多く、客観的な事実よりも主観的な解釈に基づく。組織において混乱や変化が起きたとき、指示やルールよりも、この“意味づけのプロセス”が人々の行動を左右することとなる。
よく知られる事例が、センスメイキングの産みの親である組織理論家カール・ワイクが引用する雪山遭難のエピソードである。ハンガリー軍の部隊がスイスでの軍事演習中に、アルプス山脈の雪山で猛吹雪に見舞われ遭難した。部隊には食料もなく、彼らは死を覚悟していた。そのようななか、隊員の一人がポケットから地図を見つけ、落ち着きを取り戻し、下山を決意する。地図を手に、方向にあたりをつけて進み、ついに下山に成功した。しかし、次の瞬間、隊員が握りしめていた地図を見て驚いた。それはアルプスの地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったのである。
センスメイキングにより、人や組織は、正しい情報がない中でも「行動を意味づける」ことで前進することができる。特に変化や危機の局面において、その力が発揮される。不確実な状況下で、「組織が方向性を共有し、行動を促進できるようにする」「納得感のある判断を通じて、不安を和らげ前向きな姿勢をつくる」といった点で特に効果的である。現代の経営環境は、Brittle(脆弱)、Anxious(不安)、NonLinear(非線形)、Incomprehensible(不可解)から「BANI」と呼ばれ、先読みが効かず、不確実性の高いカオスな時代といわれる(ITR Insight『テクノロジ変遷期のビジネス戦略策定』I-324121)。センスメイキングの本質的な役割とは、いわば雲の中を飛ぶ飛行機を、有視界飛行へと導くことである。そのような指針となる意味づけを示し、視界を拓くことは、現代のリーダーに求められる資質のひとつでもある。