AI前提への転換によって顕在化する企業ITの構造的課題とは何か
AIが継続的に価値を創出するために必要となる「インテグレーションデザイン」とは何か
分断と複雑性を内包した企業ITを、いかに段階的にAI前提構造へ転換するか
生成AIの普及により、企業のデジタル環境はAI活用を前提とする段階へと移行している。しかし、多くの企業ITは、過去の個別最適の積み重ねによって形成されたサイロ化・ブラックボックス化したシステム群と、分断されたデータ構造のうえに構築されており、AIが継続的に価値を創出できる構造とは言い難い状況にある。本稿では、AI前提時代に顕在化する企業ITの構造的課題を整理したうえで、意味統制・接続統制・実行統制・非機能統制の4つの統制を軸とする「インテグレーションデザイン」を提示する。さらに、レガシー環境を前提とした段階的な実装アプローチを示すとともに、企業ITに求められる組織と戦略の転換について提言する。
1.AI前提への転換によって顕在化する企業ITの構造的課題
1-1.AI前提へと移行する企業のデジタル環境
企業のデジタル環境は、急速に「AI前提」へとシフトしつつある。これまでのAI活用は、特定部門におけるPoCや個別検証を中心とした「実験としてのAI」が主流であった。この段階では、データ整備や業務設計が十分に定義されないまま導入が進み、AIを使うこと自体が目的化していたケースも少なくない。また、多くの場合、AI活用環境は本番業務や既存システム、基幹データとは切り離されたかたちで構築され、効果検証も限定的なものにとどまっていた。
しかし現在、企業はAIに対して継続的な価値創出を求めるフェーズへと移行しつつある。先行する企業では、AIを例外的な実験対象として扱うのではなく、業務プロセス、データ構造、システム構成そのものをAI前提で再設計する動きが顕在化している。判断や予測への本格的な活用、業務の自動化や高度化といった領域にAIを組み込み、日常業務の中で価値を生み出す段階に入り始めている(図1)。
出典:ITR
この変化により、AIは単なる支援ツールではなく、事業価値を生み出す構成要素となっている。企業に求められるのは「AIを導入するか否か」ではなく、「AIとともに価値を創出し続けられる構造を構築できるか」という意識転換である。AI前提とは、データやシステム、業務そのものを「AIが使うこと」を前提に設計する考え方であり、この転換の成否は、業務効率や競争力向上など企業の業績そのものに影響を与える重要な分岐点となりつつある。