ERPとは何か、を構造から理解する
ERP駆逐するソリューションへの期待は現実的か
AI時代のERPはどのように運営していくべきか
2030年までは、レガシー化した基幹系システムやERPをクラウドERPへ刷新する取り組みが続くであろう。一方で、2026年以降、AIエージェントの普及が本格化するに伴い、ERPの役割が変わる、あるいはERP自体が不要になる、さらにはAIがERPを駆逐するといった主張もみられる。巨大な基幹系システムがあればそれで足りるという時代でなくなった点は疑いがない。しかし、決定論的なシステムが不要になるかのような主張は非現実的である。企業は、こうした主張の意図や適正性を見極めるために、ERPとは何かという本質的な役割を改めて整理し、理解し直す必要がある。
構成
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1.ERPとは何か、を構造から理解する
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2.ERPは駆逐されるのか
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3.AI時代のERPをどう運営していくべきか
- 結論
1.ERPとは何か、を構造から理解する
1-1.経営手法でもブラックボックスでもない
これまで30年以上にわたり、多くの企業がERPを導入してきた。ITRが毎年主要な製品・テクノロジ分野を対象に実施している市場調査『ITR Market View』によれば、ERPの市場規模はあらゆる領域に浸透する巨大なIaaS/PaaS市場に次いで2番目に大きい。もちろん、業務システム分野においては首位であることはいうまでもない。
これほど普及しているERPでありながら、その本質が正しく理解されていない現状はむしろ不思議とすら思える。特に、日本でその傾向が顕著であることは、Wikipediaにおける定義の差異にも表れている(図1)。日本語版の定義を要約すれば、ERPは“経営手法や概念”として示されている。Enterprise Resource Planningという原語を忠実に翻訳しながら、アカデミックで抽象的な意訳を行間で埋めたものといえよう。これに対し、英語版の定義は立脚点が根本から異なり、「main」、すなわち“基幹系業務プロセスを管理するソフトウェアおよびテクノロジ”としている。言い換えれば、ERPという固有の経営手法や概念によるシステムの存在を否定していると解釈することもできる。
出典:公開情報を基にITRが作成
実際、経営学などのアカデミックな世界に「ERP」という研究分野や理論は存在しない。しかし、日本のメディアの記事やベンダーの提案においては、図1左に示した抽象的な定義や、ITRが20年以上前に発行したレポート(ITR Insight『企業情報システムの適応性とERPの役割』I-303043)で述べた“統合業務パッケージ“といった意訳がいまだに使われている。