IT部門を取り巻く、ITコストの「負の構造」とは
なぜIT部門は負の構造に陥ったのか
「攻めのIT」へ転換するための「コスト構造改革」とは
幅広い分野で物価上昇している昨今、ITコストも例外ではない。とりわけIT人材の人件費の高騰は、需要が供給を大幅に上回る人材難の状況と相まって、深刻度が増している。ユーザー企業はこの状況にありながら、どのようにIT組織を運営して行けばよいのだろうか。本稿では、この「負の構造」を客観的に捉えながら、逆境を乗り越えて「攻めのIT」に転換するための、「ITコストの戦略的構造改革」について言及する。
構成
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1.IT部門を取り巻く「負の構造」
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2.攻めのIT投資を阻む真の原因は何か
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3.戦略的ITコスト構造改革に向かうために
- 結論
1.IT部門を取り巻く「負の構造」
1-1. 逆境下のIT部門
2024年に入っても前年から続く物価上昇の波は収まらず、円安や資源高の影響も受け、モノの価格は高止まりの状態が続いている。そして物価上昇と連動するように、人件費も高騰が進んでいる。日本政府は、物価高を上回る賃上げの実現を目指すメッセージを発信しており、今後も人件費の上昇は続くとみられる。
この経済環境は、ITベンダーやユーザー企業にとっても例外ではない。サーバ/PC/通信機器などのハードウェアの販売価格やクラウドのライセンス契約単価は上昇傾向を示している。また、システム開発や運用に携わる人材の人件費の高騰はさらに深刻な状況にある。2018年に経済産業省が発表したDXレポート(いわゆる「2025年の崖」問題)を契機に多くの企業がDXを推進し、現在その取り組みは実践フェーズに入っている。進行するDXプロジェクトには多くのIT人材が必要だが、IT人材は需要が供給を上回る「売り手市場」の状態が続いており、必然的に技術者の契約単価など、IT人材コストの上昇を招いている。現に日本銀行が公開する企業向けサービス価格指数の「受託開発ソフトウェア(除く組み込み)」は、2023年4月より上昇カーブを描き始め、2023年12月には前年同月比4.1%の上昇を見せた。
このように、企業のIT部門は、コスト増加と人材不足の二重の「逆境下」にあるといえる。