クラウドサービスの導入が加速し、業務部門主導で導入されるケースが増加する中、ITコスト全体の可視化とIT投資効果の評価がより一層困難になっている。欧米企業では、こうした課題の解決とITのビジネス価値向上を目的として、TBM(Technology Business Management)フレームワークへの注目が高まっている。本稿では、TBMの概要と、これを活用したIT支出と効果の分類・評価手法について解説する。
近年、クラウドシフトやDXの推進、AIの業務適用が進む中で、企業のIT投資が増大している。一方で、そのコストや投資効果の把握は一層困難になっている。特にIaaSやPaaSなどのクラウドサービスや、業務アプリケーションとAPI接続して利用する生成AIは従量課金方式が主流であり、業務部門が主導し、IT部門の管理対象外で導入・利用されるケースも少なくない。その結果、利用状況に応じてコストが変動し、全社レベルでのクラウドコストの可視化や最適化が進まない企業が多い。
例えば、IaaS上で運用するECサイトにおいて、人気商品の発売日にアクセスが急増した際、オートスケールによりシステムの正常な稼働を維持できても、在庫不足を起こせばコストが増加するにもかかわらず売上げにつながらない。在庫が潤沢にあるのであれば、オートスケールによってECサイトでの処理を維持すべきであろう。このように、多くの企業ではIT投資をビジネス価値と紐づけて管理する手法が整備されておらず、迅速な経営判断や戦略転換の障壁となっている。
IT投資をビジネス価値の最大化に繋げるためには、IT支出を、財務視点、IT視点、ビジネス視点で分類・分析し、可視化したうえで迅速かつ戦略的に活用する必要がある。こうした考えた方を体系化した経営管理の方法論(フレームワーク)として注目が高まっているのが、TBM(Technology Business Management)である。TBMの発展を目的とするNPO団体であるTBM Councilには、Fortune100企業の92社を含む、110ヵ国以上・4,000以上の組織から、1万8,000人を超えるメンバーが参加している。