多くの国内企業がオンプレミスからクラウドへの移行を進めているが、全社システムにおけるクラウドの利用割合が劇的に向上しているわけではなく、クラウド移行の成果も乏しいのが現状である。本稿では、IT部門がイニシアチブを取ってクラウド移行を推進することにより、移行プロジェクトで発生する一時費用を大きく低減し成果を獲得するアプローチを解説する。
ITRが2020年11月に売上高300億円以上の国内企業を対象に実施した『企業におけるITインフラ活用動向調査』によると、企業におけるクラウド・コンピューティングの将来像(約3年後)はハイブリッドクラウドであるとする企業(50%)が最も多く、次いで「パブリッククラウドに集約」する企業(38%)であった(ITR Review 2021年7月号『クラウド運用パートナー選定指針』#R-221074)。また、パブリッククラウドを利用せずオンプレミスだけで運用するプライベートクラウドを選んだ企業はわずか5%であった。続いて、多種多様なシステム領域のクラウド移行の現状と今後の予定を尋ねた(図1)。
同調査では、図1に示した4つのシステム以外にも多数のシステムについて尋ねているが、いずれのシステムも、現在オンプレミスで稼働している企業が約6割、すでにクラウド移行を完了した企業は2割前後、現在SaaSを利用している企業が約1割であった。現在オンプレミスで稼働している企業のうち、約3分の1は今後もオンプレミスを利用するとしており、約3分の1はクラウドまたはSaaSへの移行を計画していることがわかった。
また、同調査では、すでにオンプレミスからクラウドに移行した企業に対し、移行方法を尋ねたところ、VMwareなどのオンプレミスの仮想基盤のまま移行した企業が最も多いことがわかった。その他には、現在のシステム構成のままIaaSに単純移行、コンテナを活用して移行、一部のシステム構成を変更して移行、システム構造をマイクロサービスに変更して移行、クラウドネイティブに再構築して移行、と回答した企業がそれぞれ9〜20%強となった。このように、国内企業がクラウド移行に採用した方法は多岐にわたる。さらに、企業ITインフラ構築/運用/保守における課題についても確認した(図2)。最も多くの企業が課題にあげたのは「コスト最適化」であり、次いで「セキュリティ対策」と続いた。
ITRでは、クラウドは革新的ビジネス創生やビジネススピード向上などのビジネス成果獲得のために活用すべきであると考えている。しかし、オンプレミスからクラウドへのプロジェクトの一時コスト(現状調査/アセスメント、基本設計、移行設計、移行作業、移行後サポート)と移行後のランニングコストの総コストが、クラウド移行前よりも過大になることは、経営層や事業部門には納得できないであろう。本稿では、クラウド移行プロジェクトにおいて発生するコストを低減するためのアプローチについて述べる。