企業内研修の効果を持続させる方法として、学習を行動に活かす「研修転移」という考え方が注目されている。本稿では、研修転移の理論と、それを実現するためのITを利用した最新の研修方法であるハイブリッド研修について解説する。
企業が従業員を対象に実施する教育研修(企業内研修)の効果は、どの程度持続するものであろうか。カナダのNPO法人(The Conference Board of Canada)が2007年に発表した調査レポート「Learning and Development Outlook 2007: Are We Learning Enough?」で興味深い調査結果が発表されている。この調査は、カナダの企業258社で行われた企業内研修を受講した従業員を追跡調査したもので、それによると研修直後には、研修を受けた従業員の47%が研修内容を実践しているが、1年後に同じ従業員を対象に再度質問したところ、実践していると回答した従業員は9%に減少した。つまり、研修の効果は時間が経つにつれて減少し、たった1年で1割程度しか実践されなくなっている。
研修の効果を持続させるには、評価によって効果を見える化することが前提となる。多くの企業では、研修直後にアンケートを実施して、その結果を研修評価としている。しかし、研修の効果は時間が経つにつれて減少していくため、研修直後の1回の評価だけでは不十分である。それでは、どのタイミングで研修の評価を行えばよいのだろうか。研修評価のタイミングとやり方を考えるうえで参考になるのが、米国の経営学者であるカークパトリック氏が提唱した「4段階評価モデル」である。同モデルでは、研修評価のタイミングと方法を、「反応」「学習」「行動」「成果」の4つのレベルに分類している(図1)。
多くの企業は、研修後のアンケート調査を毎回行っており、研修の内容によっては確認テストやロールプレイングを実施している。これは図1の「4段階評価モデル」におけるレベル1ないしレベル2に相当する。しかし、レベル1とレベル2は、いずれも研修中もしくは研修直後に行われる評価であることから、研修の効果が現場で発揮されているかどうかを評価することはできない。効果が持続して発揮されているかどうかを評価するには、レベル3の行動評価の実施が必要となるが、時間の経過とともに研修効果が減少する可能性が高いことは、前述の調査結果を見ても明らかである。行動評価の仕組みを作るのと同時に、研修で学習した内容を行動につなげ、それを持続させるための施策の実施が必要となる。