SAP社は、S/4HANA Cloudを大きく進化させてきている。最新版では、当初の倍以上のビジネスシナリオを提供するようになってきており、クラウドERPならではの優れた点も多い。多くの企業が、クラウドERPのメリットを評価するようになってきているものの、選定時の評価や導入を適切に進めていくためには、従来型アプローチからのマインドシフトも求められる。
SAP社は、2016年8月29日、SAP S/4HANA Enterprise Management(以下、S/4HANA)のパブリッククラウド版を発表し、3ヵ月ごとに機能強化を続けていくことを表明した。S/4HANA Cloudは、その後、1611、1702、1705、1708、1711と予定どおりにリリースを続けてきている。1611とは、2016年11月リリースの略号であり、以降このように表記されていく。はじめに、最新のリリースである1711までに強化されてきた主要なポイントを以下で確認しておこう(図1)。
ビジネス基盤のスコープ拡大:ホワイトカラーのデスクワークの自動化推進に加えて、進展するデジタルビジネスで想定されるより高度で複合的な業務を支援していくために、1708リリースからS/4HANAをIntelligent Coreとして新たに再定義し位置付けている。
デジタルイノベーションへの対応強化:2017年5月16日から18日まで開催された年次イベントSAPPHIRE NOW 2017で発表したSAP Leonardoを、S/4HANAのビジネスシナリオから利用できるようにすることで、機械学習/AI、IoT/ビッグデータ、ブロックチェーンなどへの対応力を強化している。
ローカライズの進展:ローカライズ対象国と言語対応が、29ヵ国17言語へと拡大されてきている。日本の製造業が生販拠点として重視するインドネシアも含まれ、タイへの対応も予定されている。これに合わせて、Plan to Product、つまり従来のPLMとERPの生産管理/製造向け機能も統合・強化されている。
クラウドファーストによる機能強化:1611リリース時点から2倍程度にS/4HANA Cloudのビジネスシナリオが拡充されている。SAP Leonardoに加えて、クラウドアプリケーションのSuccessFactors、Concur、Ariba、Hybrisなどとのネイティブ連携機能も組み込まれており、PaaSのSAP Cloud Platform(以下、SCP)ではJava開発向けSDKも提供されている(図2)。