これからのシステム開発、とりわけデジタルイノベーション案件では、従来のウォーターフォール型の開発プロセスや、SIベンダーによる受託開発のスキームが適合しないものが増えるであろう。クラウドソーシング形式の技術者コミュニティであるTopcoder社を例に、その代替手段としてのクラウドソーシングの可能性について考えてみる。
企業のIT部門におけるシステム開発の内製化率は、欧米企業と比べて著しく低く、開発実務の大部分を外部ベンダーに依存している。また、多くの大企業では情報システム子会社を擁しているが、実務を担うはずの情報システム子会社においても技術の空洞化が進んでいるという実態を見逃せない。
ITR Review 2017年9月号「イノベーションに求められる人材像」(#R-217093)では、イノベーションを担う3つのタイプの人材像の中で、国内企業のIT部門ではデザイナー・タイプの人材が最も不足していると述べた。しかし、不足しているのはそれだけではない。ベンダー依存度が高く内製化率の高いIT部門では、デベロッパー・タイプの人材も大きく不足している。適用可能な技術を的確に評価・選定したり、迅速にプロトタイプを作成し、継続的に改善したりするといった局面においても外部に頼らざるを得ないという企業は少なくないだろう。
従来の基幹系業務システムのようなSoRに関わる案件であれば、企画および要件定義をインソースで行い、設計・開発・運用などの実務を外部のITベンダーに委託するという分業のスキームが可能であった。しかし、昨今のIoTやビッグデータを活用したイノベーション案件やデジタルビジネス創出のためのシステム開発案件は、SoEの特徴を持っており、ビジネス環境や構成要素の関係性は常に変化するため、事前の定義よりも変化に対する即応性が重視される。アイデアと実装を短いサイクルで回し、段階的にイノベーションを実現していく協業のスキームが必要となり、明確な分業が困難な案件となることが多い(ITR Insight 2015年夏号「SoEのためのアプリケーション開発指針」#I-315072)。
それでは、情報システム子会社や従来のSIベンダーがこうしたニーズに応えられるだろうか。準委任という選択肢は残るものの、現時点において、OSSやAPIの活用、最新のツールやPaaS環境、DevOps、アジャイル型のプロジェクト推進、継続的インテグレーションなどに対応できるSIベンダーは非常に少ないといわざるを得ない。外部に依存せざるを得ないにもかかわらず、外部にそれが求められないというジレンマが、企業のデジタルイノベーションの推進に立ちはだかっている。