デジタルビジネスが加速するなか、企業は競争力を向上・維持するうえでこれまで以上にデジタルデータの知的財産権を管理することが求められる。そこで課題として浮上しているのが、進境著しいAI/機械学習技術を巡る権利の取り扱いである。現行法では保護対象が不明確であり、政府でも今後の方向性を決めるための議論が始まったばかりである。企業はその動向を注視すべきである。
今後、企業がデジタルビジネスへと舵を切るうえで、収益を支えるデータやソフトウェアといったデジタル知的財産権の持つ意味合いは極めて大きい。ITRでも、知的財産のうちの何を秘匿し、何を公開するかという「オープン&クローズ戦略」の策定を強く推奨している(ITR Review 2017年2月号「オープン&クローズ戦略の推進」#R-217021)。
そうした知的財産権を巡る議論のなかで、いま注目されているのがAI(人工知能)技術によって生み出される創作物の位置づけである。機械学習技術の進展によって、限定的な人の介在でアウトプットが出せるようになったこと、AI技術の利用によって、そのアウトプットが音楽や小説といったコンテンツの分野にまで及んできたことなどにより、「AIシステムの創作物に著作権は認められるか」といった議論が盛んである。もちろん、それも重大な関心事であるが、一般企業の知財マネジメント戦略の観点からすれば、創作物(出力データ)という限られた範囲だけでなく、AIシステムを利用する際のライフサイクル全体を見通したより緻密な議論が必要となる。
AIシステムによる創作物について知的財産権(特許や著作権など)が認められるためには、現行法の解釈では「人の創造的寄与」が条件である。ただし、今日のコア技術である機械学習では、出力データを生み出すために不可欠な「学習済みモデル」までもがプログラムによって自律的に生成されるため、「人の創造的寄与」の線引きは極めてあいまいである。したがって、企業においては、AI活用のライフサイクルのさらに上流まで遡って権利問題を考える必要がある。ITRでは、少なくとも以下の5つの論点について、ユーザー企業自身がスタンスを明確にすることを推奨する(図1)。
①ユーザー、デバイスなどから収集した「生データ」の権利
②AI(機械学習)システムに訓練用として入力する抽出データ(データセット)の権利
③モデルを生成・実行する基盤であるAI(機械学習)プログラムの権利
④創作データを生み出す「学習済みモデル」の権利
⑤最終成果物である創作データ(コンテンツ)の権利