多くの企業でデジタルイノベーションが注目されているが、自動車はすでにITによって大きな変化が生じ始めている。本稿では、自動車におけるデジタルイノベーションを企業とITとの関係の変化の例として取り上げ、企業とITの今後の関係を考察する。
近年、自動運転、コネクティッド・カーなど自動車を取り巻く産業でデジタル化によるさまざまな変革が起きており、話題となっている。さまざまな機器の複合体であり、社会インフラのひとつであり、そして個人が所有するデバイスでもある自動車のデジタル化は、ひとつの産業の枠を超え、今後のデジタルイノベーションの方向性を知るうえで参考となる事例のひとつと考える。
ITRではデジタルイノベーションを「デジタル技術やデジタル化された情報を活用することで、企業がビジネスや業務を変革し、これまで実現できなかった新たな価値を創出すること」と定義しており、これまでの情報化を「コンピュータライゼーション」として「デジタルイノベーション」との違いを指摘している(ITR Review 2014年9月号「デジタルイノベーションの潮流」#R-214091)。自動車産業は、IT技術やデジタル技術を積極的に利用してきた産業のひとつであるが、他の製造業同様、これまでの利用の仕方は手作業からの置き換えの延長線上であり、業務やビジネスに対する改善・ 拡張という「コンピュータライゼーション」の枠を超えるものではなかった。
欧米ではUberやLyftなどの新たな配車サービス事業者によってタクシー業界が大きな影響を受けたように、ビジネスモデルが異なる企業の参入によって既存のビジネスに対する破壊的な変化が起こっている。しかし、これらは、異なるビジネスモデルではあるが、店舗販売とECの関係のように、販売方法は変化しても販売している商品そのものは同一である。つまり、自動車そのものに変化はない。ところが、自動車をインターネットに接続するコネクティッド・カーや自動運転は、自動車がデジタルデバイス化することを意味する。デジタルデバイス化した自動車とITの関係は、これまでとは異なる新たな段階に入り、「デジタルイノベーション」の領域に踏み出していると考えられる(図1)。