ITRは2024年11月26日に、年次フォーラム「IT Trend 2024」を、5年ぶりに東京・京王プラザホテルで開催した。今回のテーマは「AIネイティブカンパニーへの挑戦」。AIの活用能力が企業の競争力を左右する時代がきており、企業は、戦略立案から業務遂行に至るあらゆる企業活動にAIを組み込む「AIネイティブカンパニー」を目指すことが求められている。本フォーラムでは、プリンシパル・アナリスト 舘野 真人による基調講演をはじめ、一般社団法人日本ディープラーニング協会 岡田 隆太朗氏、シニア・アナリスト 水野 慎也による特別講演、ITRアナリストによるアナリストセッション、ITベンダーによる特別セッションの全15セッションが行われた。
『AIに任せるべきこと』と『人が担うべきこと』を、より高い解像度で明らかにし、組織内に定着させることが求められる
まず、基調講演では、プリンシパル・アナリスト 舘野 真人が「生成AIといかに向き合うか〜リーダーに求められるマインドチェンジ〜」と題し講演を行った。講演では生成AI登場の本質的な意義、リーダーに求められるスキルとマインドセット、2025年に向けたAI技術のトレンドといった3つの論点を解説した。生成AI技術は、情報システムの価値を再定義する可能性を秘めたテクノロジであるとし、「企業のITリーダーには、既存の常識にとらわれない柔軟な発想と行動様式」「生成AIを組織に取り入れるうえでは、リーダーにも相応のスキル」「2025年は、『AIに任せるべきこと』と『人が担うべきこと』を、より高い解像度で明らかにし、組織内に定着させること」が求められると説明した。
プリンシパル・アナリスト 舘野 真人
国内企業のAI活用の現状と今後の生成AI活用に向けた課題を解説
特別講演では、一般社団法人日本ディープラーニング協会 専務理事 岡田 隆太朗氏による「AI最前線~AI活用とデジタル人材育成~」と題した講演が行われた。まずは、日本のAI法制度の在り方として、AI法制度研究会の設置、国内外におけるAI戦略会議の振り返り、AI事業者ガイドラインなどの解説が行われた。次に、企業におけるAI活用の現状として、生成AIの社内利用に関する推進度・関心度や業界ごとの推進度、生成AIの導入部署・活用効果・リスク対応策・直面した課題認識などの日米比較、今後の生成AI活用に関する解説が行われ、最後にAI活用における人材育成の解説、検定・資格試験などを紹介した。
一般社団法人日本ディープラーニング協会 専務理事 岡田 隆太朗氏
AI活用が前提となるこれからの企業のIT投資は、「イノベーション創出」と「データ活用」に対応した新しいテクノロジや開発・運用手法の採用が求められる
続いて、シニア・アナリスト 水野 慎也が「IT投資動向調査2025にみるDXとAIへの戦略的投資の変化」と題し、ITRが毎年実施している「IT投資動向調査2025」から国内企業のIT投資の最新状況、DX推進とAI活用の現状と投資予算、IT投資効果を高めるためのヒントを解説した。
まず、2024年度のIT予算の増減傾向については、前年度から「増額」したとする企業が過去最高水準に達しており、2025年度は調査開始以来の最高値となることが予想されると解説した。また、業種別での売上げに対するIT予算比率は「金融・保険」が最も高く、最重要視する課題の最上位は「デジタル技術によるイノベーション創出」であると説明した。投資が期待される製品・サービスとしては、「生成AI」「AI/機械学習プラットフォーム」「チャットボット/チャットサポート」といったAI関連が上位に位置づけられ、AI関連予算を計上する企業は7割に上ることなどの解説を行った。
シニア・アナリスト 水野 慎也
これらを受け、水野は「AIネイティブカンパニーに必要となる組織能力として、AIを中心としたテクノロジの適切なタイミングでの組み合わせ、AIを安全かつ倫理的に利用するためのガバナンス体制の整備が重要である」と分析した。さらに、「企業のIT投資意欲が旺盛であり、重視するIT戦略上の課題は『イノベーション創出』と『データ活用』であることから、AI活用を契機にさらなる成果創出に向けてDXに取り組むべきである。AI活用が前提となるこれからの企業のIT投資は、それに対応した新しいテクノロジや開発・運用手法の採用が求められる」と提言を行い、午前の講演を締めくくった。
午後には、ITRのアナリストによるセッションとITベンダーによる特別セッションが行われ、AIに関する多様なテーマについて、最新動向の解説が行われた。