ITRは2021年10月6日、年次のコンファレンス『IT Trend 2021』をオンライン配信にて開催した。今年のテーマは「新世代を生き抜くビジネス基盤創造」。コロナ禍への対応が長期化するなか、デジタル社会へのシフトが着々と進んでいる。新世代のビジネス環境では、どのような働き方、顧客接点、ビジネスプロセスが要求されるのか。また、それらのビジネス基盤をいかに創造すべきか。本コンファレンスでは、3部構成からなる基調講演をはじめ、ITRアナリストによるアナリストセッション、ITベンダーによる特別セッションの全14セッションが行われた。
基調講演では、シニア・アナリスト 三浦 竜樹、シニア・アナリスト水野 慎也が「顧客エンゲージメントを強化するビジネス基盤創造」と題し講演を行った。
はじめに、三浦より、ITRが実施した『国内IT投資動向調査2022』の調査結果の速報値から、国内企業のIT投資の最新動向についての解説が行われた。
まず、国内企業における2021年度のIT予算の増減について調査結果を示し、「IT投資の増加の勢いは、コロナ禍の2020年度は2019年度に続き減速傾向であったが、2021年度は持ち直し、上向きとなった」と指摘。この背景として、ビジネスを継続していくためのDXの必要性から、積極的なIT投資が行われたのではないかと推察した。2022年度の投資の勢いは、2021年度から「ほぼ横ばいになると見ている」とした。
また、三浦は企業における顧客エンゲージメント関連テーマへの取り組み状況を紹介。DXには、主に社内業務を対象とした「内向き」のDXと、顧客向けのビジネスを対象とした「外向き」のDXがあるとしたうえで、コロナ禍の影響でこれまでなかなか進んでこなかった「外向き」のDXである顧客エンゲージメント関連テーマに対する投資が進んでいると分析した。
続いて、水野が顧客エンゲージメントの最新動向を深掘りした解説を行った。
水野は、「顧客エンゲージメントを高める要素は、従来、製品の機能や価値だったが、企業から顧客に提供される体験価値へと変化している」と指摘したうえで、顧客エンゲージメントを高めるために必要なこととして「顧客との接点の構築」をあげた。さらに、「顧客とのさまざまな接点から得られたデータを蓄積・評価し、どの接点が顧客のエンゲージメントを高める効果があったのかを計測・可視化することが重要」であるとし、顧客関連データを部門/業務プロセスを横断して収集・分析するIT基盤として注目すべきツールとして、CDPおよびカスタマーサクセスツールについての解説を行った。
さらに水野は、こうした顧客エンゲージメントを高めるサービスを実際に展開している事例を紹介。靴の内寸の3Dスキャニングと足の3Dスキャニングの両データを収集しマッチングさせるアルゴリズムを開発し、靴売り場向け接客支援サービスを展開する「Flicfit」や、ゲーム購入者のカスタマーサクセス(ゲームをクリアする)を支援し、顧客エンゲージメントを高める施策を展開している「PlayStation®5」のゲームヘルプ機能などの事例が紹介された。
最後に水野は、このような先進事例を参考にして、自社製品・サービスの顧客エンゲージメントを高める施策に着手することが必要であるとし、講演を締めくくった。
基調講演の第2部には、ゲストスピーカーとして、味の素株式会社 取締役 代表執行役副社長 Chief Digital Officer(CDO)の福士 博司氏が登壇。「DXによるビジネス基盤の強化と創造」と題し、味の素のDXの構想から完成までを解説する講演を行った。また、基調講演の第3部では、明治安田生命保険相互会社 デジタル戦略推進G 兼 情報システム部 上席ITアーキテクトの湯浅 慎司氏が登壇。「対面とデジタルを融合する営業職員のスマホ活用」と題して講演を行った。
午後には、ITRのアナリストによるセッションとITベンダーによる特別セッションでは、ゼロトラストアーキテクチャ、バーチャルトランスフォーメーション(VX)、IoT市場におけるテクノロジ活用動向、DXの高度化に向けたエンタープライズシステムの勘所、人材管理のデジタル化動向、企業変革のプロセスの手法などをはじめとする多様なテーマについて、最新動向の解説とともに企業への提言を行った。