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[特集]融合する2つのビッグデータ ― 重視すべきデータ分析プラットフォーム ―

IoTにより、なにができるか、どんな価値が得られるかに注目が集まっている。しかし、センサーを用いてデバイスなどのモノのビッグデータを収集するだけで新たなサービスが創造できるものではない。特性の異なるモノとヒトの2つのビッグデータを融合できるプラットフォームとその有効活用が、企業の今後の競争力を左右するだろう。

経営の可視化・制御化をブレイクスルーするIT/OTの融合

  • 多くの企業は、「経営の可視化や制御化」「データ分析と意思決定の高度化」といったテーマで、日々のビジネスオペレーションの進捗や実績を遅滞なく把握するとともに、変化の激しい時代に適応できるシステムの理想像を追求してきた。しかし、これまでの企業ITは、工場や流通センターに設置された設備/機器、ロジスティクスなどの輸送/交通システム、電力・エネルギーなどの社会インフラといった物理的なモノのデータを補足するシステムと、基本的には切り離されたシステムとして構築されてきた。そのため、ビジネスを可視化し制御するといっても、その範囲は業績管理やそこからフィードバックを得るといった、限定されたものにならざるを得なかった。企業ITと設備/機器、および社会インフラなどのオペレーションを支えるテクノロジやシステムの間には、容易に乗り越えられない壁があったといえる。

    しかし、インターネット技術の飛躍的な進展により、すでにこの壁は乗り越えられつつある。これまで、専用のネットワークやプロトコル主体で構築されてきた工場など現場オペレーションのシステムにも、インターネットの標準的なテクノロジが使われるようになってきており、ビジネスシステムとエンジニアリングシステムの垣根は大きく下がってきている。また、電力・ガスなど社会インフラにおけるスマートグリッド化が進むとともに、建物・住宅などのビルディング・オートメーションやファシリティ・サービスも、単なる省エネルギーや自動化だけでなく、保守サービスやメンテナンスなどのビジネスを包含するサービスとなってきつつある。これまでの企業ビジネスのベースであったインフォメーション・テクノロジ(IT)とオペレーショナル・テクノロジ(OT)は、デジタル化の進展に伴って今後急速に融合し、ビジネスの可視化・制御化、および自動化の可能性を拡げていくだろう。そして、ITとOTの融合において、象徴的なキーワードがIoT/ビッグデータであることはいうまでもない。

IoTで重視すべきビッグデータの分析

  • インターネットに接続されるセンサーやデバイスは、2025年までに500億個、あるいは1兆個に達するとも予測される。さらに、そこから5年程先の2030年には、一挙に100兆個にも増える可能性を予測する見方もある。収集・蓄積されるデータは膨大なものになるだろう。さらに、量が膨大なだけでなく、リアルタイム性が高いデータとなることも特徴である。一般的な企業ITのデータは、リアルタイムといってもせいぜい秒単位レベルであり、実質的には分・時間のレベルでビジネスの状況を管理するのに対して、OTのデータはミリ秒、粗くても秒のレベルが大半の、まさしくリアルタイムデータである。そして、リアルタイム性の高いデータは、発生時点やその前後、および周辺の状況や環境と密接な関係を持つ。つまり、データが発生した時点や状況を切り離して分析しても有意な結果が得られないことが多いのである。鮮度が高く揮発性が高いデータのこうした特性を考慮して、収集・蓄積するデータのモデルやタイミングを検討する必要がある。

    モノのデータをいくら大量に蓄積できたとしても、ただそれだけで顧客価値の高いサービスが提供できるものではない。実際、ある企業のIoTプロジェクトは、収集・蓄積したデータの9割以上が、データ分析から有意な付加価値を得られず頓挫する事態に陥ったという。スマート、コネクトといった製品や設備/機器の制御や情報通信技術が注目されがちなIoTであるが、重要なのは、センサーやデバイスから集積される膨大なビッグデータの蓄積や分析から得られる付加価値をどう高め、どうサービス/アプリケーションとして提供するかの検討にあるといっても過言ではない(図1)。

    図1.IoT/ビッグデータにおけるデータ分析の位置付け IoT/ビッグデータにおけるデータ分析の位置付け

先行企業が推進するIoTプラットフォームの状況

  • 米GE社などの企業が推進するIIoTのリファレンス・アーキテクチャでは、サービス・プラットフォームの主機能としてデータ分析が位置付けられており、こうした狙いが明確である(ITR Review 2016年8月号「IoT国際標準化の動向」 #R-216083【会員限定コンテンツ】)。同社は、このコンセプトで実装した汎用的な産業プラットフォームのPredixと同時に、ヘルスケア産業に特化したデータ解析が可能なHealthcare Cloudも2016年にサービスを開始するとしている。オランダPhilips社が提供するHealthsuite Digital Platformも同じ狙いといえるだろう。また、ビルディング・オートメーションの分野では、米Johnson Control社のPanoptixや、スイスのABB社、独Bosch社、米Cisco社の3社のジョイント・ベンチャーが提供するオープンなプラットフォームであるSmart Homeで、集積したデータを活用するとしている。

融合する2つのビッグデータ

  • 現段階ではあまりクローズアップされていないが、ITとOTの融合が進むということは、カスタマーエクスペリエンスやデジタルマーケティングといった顧客接点、つまりヒト主体のビッグデータとモノのビッグデータが融合するということでもある。ヒトとモノのビッグデータをどうデータベース化し、AIなどのアルゴリズムを活用しながら高度なデータ分析を提供していくかも、今後の大きな論点となっていくだろう(図2)。

    こうしたなか、最も主体性が求められるのは、クラウドからビジネスをスタートした新興企業ではなく、製品開発、生産、物流などで多くの設備/機器やOTのシステムなど、いわばオンプレミスの資産を多く抱える伝統的な企業であろう。言い換えれば、売る側主体の時代から顧客価値主体の時代に向けて、モノからサービスへの転換を進めなければならない企業であるともいえる(ITR Insight 2015年秋号「サービスデザインによるビジネス変革へのアプローチ」 #I-315102【会員限定コンテンツ】)。

    図2.融合する2つのビッグデータ 融合する2つのビッグデータ

企業はどのようなアプローチでIoT/ビッグデータの検討を進めるべきか

  • 実際に、今後10年に向けた長期的活動として、段階的な構想策定に取り組み始めた企業も少なくない。たとえば、MES(製造実行システム)や流通設備の刷新による自動化/スマート化から着手して、原材料や製品のスマート化による1個流しを実現することで得られるトラッキングデータおよび品質管理データを活用するなどの検討を始めている。こうした検討では、これまでの常道であった現状の調査/分析から課題を積み上げるAs-Is/To-Be対比型のアプローチでは難しいだろう(ITR Review 2016年7月号「アイデアライゼーション・アプローチの勧め」 #R-216071【会員限定コンテンツ】)。2020年を節目として、2025年までに世の中が大きく変わることが想定されるからである。参考までに、2015年にスイスで開催された世界経済フォーラムの「ソフトウェアと社会」分野の予測から、いくつか関連性があるものを以下に引用する。括弧内は、2025年までに実現される確率を示している。

    1. 10%の人々がインターネットに接続された服を着る(91.2%)
    2. 10%の眼鏡がインターネットに接続され読書できるようになる(85.5%)
    3. 最初の人体埋込み携帯電話が商用化される(81.7%)

    こうした予測は本当に的中するかどうか保証されるものではない。しかし、このような社会を実現させることを意識しながら、世界経済フォーラムの主要メンバー、各国のビジネス、政治、学術のリーダー達が毎年議論を重ねていることは確かである。企業は、理想像を描くにおいて、現状の課題や制約に縛られることなく、段階的なマイルストンでIoT/ビッグデータの検討を進めていくべきである。

提言

  • ITとOTの境い目がなくなっていくにつれ、モノとヒトの2つのビッグデータも融合していく。企業は、それぞれのビッグデータの特性を見誤ることなくデータをモデル化し、付加価値の高いサービスを提供しうるデータ分析のプラットフォームを構築していくべきであり、多くの資産を保有する企業ほど積極的に検討を進める必要がある。また、検討を進めていくにあたっては、大きく変わり得るのは社会だけでなく、自社も変革し得ることを意識して理想像を追求すべきである。

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