組織に属する個人が企画書や提案書を作成する際の思考や検討過程、また組織がその優劣や合否を判断する際の意思決定プロセスや判断基準は、これまで主として個人の頭の中にとどまり、組織として共有されてこなかった。生成AIをはじめとするデジタル技術を活用することで、思考と意思決定の構造を組織として蓄積・再利用することが可能となり、属人知を組織知へと転換し、組織全体として学習し続ける仕組みを構築することができる。
これまで多くの企業では、“考えること”そのものよりも、“考えたことを表現すること”に多くの時間と労力が費やされてきた。企画書や提案書の作成においては、内容の検討以上に、文章を推敲し、図を描き、体裁を整える作業が重視され、その完成度が評価の前提とされてきた。その結果、思考の途中段階でのアイデアや仮説レベルの着想は、「まだかたちになっていない」ために共有されず、個人の頭の中に埋もれるという構造が生まれていた。この構造は、知識や経験が特定の個人に集中する「属人化」を招き、組織としての学習や再現性を阻害してきたといっても過言ではない。優れた企画や判断が生まれても、その背景にある思考プロセスや判断基準は残されることなく、人の異動や退職とともに失われていく。その結果、同じような議論や失敗が繰り返され、組織全体の能力が積み上がりにくい状況が続いてきた。
しかし、生成AIの台頭が、この前提を大きく変えつつある。文章化、図解化、要約、構造整理といった“表現”に関わる作業の労力が劇的に下がり、未完成であっても思考を外に出し、他者と共有することが容易になった。生成AIは単なる業務効率化の道具ではなく、思考を可視化し、対話と改善を高速に回すための基盤技術として機能し始めている。重要なのは、この技術変化を「個人の生産性向上」にとどめず、どのように「組織能力の向上」につなげるかである。生成AI、LLM、RAG、AIエージェントといった技術を適切に組み合わせることで、個人の暗黙的な気づきや判断を可視化し、構造化したうえでそれを共有し、再利用可能なかたちで蓄積することが可能になる。すなわち、属人知を組織知へと転換し、組織全体として学習し続けるプロセスを設計できるようになったことを意味する。