組織内の情報や知識を共有・活用するためのプロセスや手法である「ナレッジマネジメント」は、長年取り組まれてきたが、実際に効果をあげている企業は多くない。しかし、AIを中心とするデジタル技術の進化と普及によってその重要性が再認識され、新たなステージが切り開かれようとしている。
個人の頭の中や体で覚えているナレッジ(経験・洞察・スキル)を、他者や組織全体に共有し、活用することは積年の課題といえる。ビジネスの現場では、インターネット上の公開情報も必要だが、それ以上に社内のコンテンツやデータを活用する場面が多い。特に大企業ではドキュメント数が膨大であるうえに、管理ツールもサイロ化しやすく、情報探索に要する負荷が非常に大きい。また、昨今ではシニア層の世代交代に伴って、熟練エンジニアやベテラン社員の知の継承が進まないことが多くの企業で課題となっており、個人の暗黙知をいかに形式知化し、継承するかという難題も立ちはだかっている。
一方、企業における生成AIの全社展開が進み、多くの従業員がChatGPTやMicrosoft Copilotなどのパブリックサービスを利用できる環境が整いつつある。これは、ITRが以前に示した「生成AIの導入ロードマップ」(ITR Review『生成AIの導入ロードマップ』R-224034)の4つのステージの1つ目の“パブリックサービス利用”をクリアしたことを意味する。そして、現在多くの企業が2つ目のステージである“自社ナレッジベースの装備”に取り組もうとしている。さらに、異なる知識のぶつかり合いからイノベーションのアイデアを創出するためのセレンディピティ・フィールドの整備においても、ナレッジマネジメントは重要な役割を果たすと考えられる(ITR Insight『AIからイノベーションを生み出すための仕組みと仕掛け』I-325121)。
ここにきて、生成AI、AIエージェント、RAG(Retrieval-Augmented Generation)、強化学習などの技術を用いて、個人のナレッジを組織のナレッジとして蓄積・活用できる仕組みとプロセスを構築する道具立てが整ってきた。これにより、ナレッジマネジメントが新たなステージを迎えようとしている。