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【R-223023_6963140932】マルチクラウドの落とし穴

作成者: 株式会社アイ・ティ・アール|Sep 19, 2023 4:11:51 AM

国内企業の多くは複数のパブリッククラウド利用しているが、大半はその方針を戦略的に決定していないのが実態である。マルチクラウドのメリット/デメリット、およびクラウド事業者の選定方法などを自社で入念に検討した後にマルチクラウドを推進すべきである。

マルチクラウド指向の国内企業

クラウド・コンピューティングには、大きく分けて2つの分類がある。パブリッククラウドとプライベートクラウドである。前者は、クラウド事業者側の資産となるハードウェア環境でサービスが提供される手法を指し、ユーザー企業はハードウェア資産を保有するリスクがない。後者は、ハードウェア環境を自社資産またはリースやレンタルなどの自社リスクとなる方法で保有し、その環境下でクラウドを構築/運用する手法を指す。一般的に、企業はパブリッククラウドだけ、またはプライベートクラウドだけという環境ではなく、両方を組み合わせて採用することが多い。

アプリケーション稼働環境の種類とその概要を図1に整理した。パブリッククラウドだけを利用するパターンには、単一のパブリッククラウドを利用する「シングルクラウド」と、複数のクラウドを利用する「マルチクラウド」がある。パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせて使うパターンを「ハイブリッドクラウド」と呼ぶ。

「ハイブリッド」とは複数の方式の組み合わせを意味することから、パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせてひとつのITインフラとして活用する方法が、本来の「ハイブリッドクラウド」である。つまり、プライベートクラウドでリソースが足りない場合にパブリッククラウドにバーストする、アプリケーションの利用者の特性によりパブリッククラウドとプライベートクラウドを振り分ける、フロントアプリケーションをパブリッククラウドに配置し、データベースなどのバックエンドをプライベートクラウドに配置する、などである。これに対して、単純にパブリッククラウドとプライベートクラウドを併用しているパターンは本来の意味でのハイブリッドクラウドではないが、このような使い方をしている企業も多く、広義のハイブリッドクラウドとして捉えられているといえる。

図1.アプリケーション稼働環境の種類とその概要

出典:ITR

また、国内ではオンプレミス環境にある単体サーバ(プライベートクラウドではないサーバ)のことを「オンプレミス」と称すことが多い。現時点でもオンプレミスをITインフラとして利用している企業システムは多いが、これを自社コンピューティングの将来像に位置づけている国内企業は皆無といってよいだろう。

図2に年間売上高300億円以上の国内企業のITインフラに関与している人に対して、自社におけるクラウド活用パターン(現在と約3年後)を調査した結果を示した。現在も将来も、自社のクラウド活用パターンは「ハイブリッドクラウド(狭義)」とした企業が最も多く、「ハイブリッドクラウド(広義)」を合わせると、約半数の企業がハイブリッドクラウドを指向している。回答で2番目に多かったのは、現在も将来も「マルチクラウド」であった。「シングルクラウド」を指向する企業は現在17%だが、将来は14%と3ポイント減少することがわかった。一般的にハイブリッドクラウドでは複数のパブリッククラウドを利用していることから、国内企業の大多数が複数のパブリッククラウドを利用しているといえる。図1の定義とは異なるが、この複数パブリッククラウドの利用形態が、一般的には「マルチクラウド」と捉えられている。

図2.クラウド活用パターン(現在および将来)

出典:ITR『企業におけるITインフラ活用動向調査』(2020年11月調査)