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【R-221114_6962481297】クラウド移行の最適アプローチ(後編)

作成者: 株式会社アイ・ティ・アール|Sep 17, 2023 2:41:37 PM

オンプレミスからのクラウド移行をベンダーに丸投げすべきではない。自社でイニシアチブを取り、自社のクラウド戦略に基づいて設計を行うべきである。経験豊富なITエンジニアは、クラウドはデータセンターの延長線上にあると勘違いしやすいが、従来のオンプレミス系テクノロジとは次元が異なることを理解し、移行を進めるべきである。

オンプレミスからクラウドへの移行方法とその特徴

オンプレミス上の既存システムをクラウドへ移行するニーズは根強く存在する。大企業の場合、数百のシステムを抱えていることも少なくなく、既存システムを完全にクラウド移行した企業は非常に少ない。現在も多くの企業が粛々とクラウド移行を行っている。

図1にオンプレミス上の既存システムをクラウドに移行する方法の選択肢を示した。本稿では、IaaSへの移行を対象としており、PaaSやクラウドネイティブ・アプリケーションへの転換は対象としていない。

図1.クラウド移行方法の比較

出典:ITR

A:IaaS上での再インストール
国内でクラウド(IaaS)の利用が始まった当初は、クラウド移行のノウハウを蓄積しているSIerも少なく、移行支援ツールも乏しい状況であったため、既存システムをインストールする手順をIaaS上のサーバOS上で再現する方法を採用する企業が多かった。サーバOSが同じで、サーバおよびネットワークの設定がオンプレミスとクラウドで同一なら移行に失敗する確率が低いことから、今でもこの手法を採用する企業は少数ながら存在する。しかし、この手法は人的工数が多く、移行準備期間も、現行システムから移行後のシステムに切り替えるための停止期間も長く、移行にかかる総コストも高い。

B:P2V(Physical to Virtual)
オンプレミスの物理環境を、IaaSの仮想マシンサービス上にコンバートする方法である。具体的にはハードディスク・イメージをコンバートすることが多いが、多種多様な手法が存在する。Aに比べて、工数は削減できるが、コンバート精度の事前評価やコンバート後のテストなど、数多くの作業が必要であるため、移行準備期間、停止期間、移行総コストはAと大きな差はない。

C:V2V(Virtual to Virtual)
オンプレミスのハイパーバイザー(VMware vSphereやHyper-Vなど)上で稼働している仮想マシンを、IaaSの仮想マシン・サービスに移行する方法である。多くのクラウド事業者が仮想マシン・イメージを自社IaaSに取り込むサービスを提供している。サードパーティ製ツール/サービスも多い。A、Bに比べると工数、移行準備期間、停止期間、移行総コストは削減できるが、個々のシステムに対し、事前評価および移行時テストが必要となるため、次のDおよびEの手法には劣る。

D:仮想基盤移行
オンプレミスで利用しているハイパーバイザーと同一のハイパーバイザーを利用できるIaaSに移行する方法である。例えば、vSphereを利用している企業が、VMware社が保証/運用するクラウド事業者のvSphereサービスを利用するといった形態である。この方法であれば、ハイパーバイザー・ベンダーが提供するライブ・マイグレーション機能を活用して、無停止または短時間の停止でオンプレミスからのクラウド移行が実現できる。この方法の利点は、IaaSとオンプレミス間のポータビリティを確立できることである。オンプレミス環境を残すことで、いつでもクラウドからオンプレミスに戻すことが可能となる。

E:移行サービス/ツール利用
クラウド事業者やサードパーティがさまざまな移行サービス/ツールを提供している。これを利用すれば、Dと同じようなメリットを享受することが可能となる。オンプレミス環境に専用エージェントをインストールするタイプの製品が多いが、この場合、無停止での移行が可能である。現行環境を自動的に分析して移行を行う機能を提供していることも多く、移行前後の人的作業も大幅に削減できる。

既存システムのクラウド移行においては、当該システム専用または共有のストレージ、ネットワーク、セキュリティ系のハードウェア/ソフトウェアについても注意が必要である。アプリケーションに直接関与するシステムの移行は図1に示した手法のいずれかを適用できるが、ストレージ、ネットワーク、セキュリティ系に対しては適用が困難なケースも散見され、別の手段を採用せざるを得ないことも多い。