DX推進派の企業が増加し、将来の新機軸となり得るデジタルビジネスの開発に期待を寄せる経営者やミドルマネージャーは少なくない。しかし、新ビジネス開発で成果をあげるためのハードルは非常に高く、確実な方法論も存在しない。成功確度を高めるためには、事業化へ至る一連のステップを理解し、勘所を押さえてビジネス開発に取り組むことが求められる。
ビジネス開発の機会はさまざまな文脈において存在する。消費者向けメーカーが新たな商品を開発する機会もあれば、金融機関が新興国の投資先を開拓するようなケースもあるだろう。そうしたなか、DX推進企業においては、デジタル技術を活用した新たなプロダクトや事業を創出し、収益化を果たすことが大きな目的となる。DXには、ビジネス基盤のデジタル化(電子契約システムの導入など)やビジネスプロセス革新(デジタルマーケティングなど)の側面もあるが、新規ビジネスの創出は競争優位戦略を見据えたDXの本義であり、いわば花形的な取り組みといえよう。
しかし、その華々しさとは裏腹にビジネス開発の取り組みは、難易度が高く、具体的な成果をあげた例は非常に少ない。テックベンチャーがひしめくシリコンバレーにおいて、スタートアップの成功確度は「千三つ」、つまり0.3%程度にすぎない、などと評される。そのため、複数案件を並走させて、高頻度で組み替えたり、戦略方針の転換を行ったりするリーンスタートアップの考え方を取り入れて、事業化リスクをコントロールすることが重要となる。高額な設備投資で一気に事業化するのではなく、小規模のワーキンググループやプロジェクトで開始することが賢明である。
ただし、全てのDX推進企業の経営者層や担当者に、必ずしもこのような理解があるとは限らない。むしろ、ディスラプターや競合産業の台頭によって現行事業が先細っていく見通しを危惧して、新たな事業の柱を確立することに過度な期待を寄せる経営者は少なくない。DX推進やビジネス開発を担うチームは、新ビジネスの収益化は成功確度の低い取り組みであるという事実について、経営者層をはじめとするステークホルダーの理解を得ることから活動を開始すべきである。そのように事前に期待度コントロールを行っておくことで、必要な環境整備(投資評価サイクルの高頻度化など)やサポート(役員からの後方支援など)を得られる可能性が高まる。