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【R-221083_6962535433】ダイナミックプライシングの時代へ

作成者: 株式会社アイ・ティ・アール|Sep 15, 2023 4:07:19 PM

ダイナミックプライシングとは、製品やサービスの価格を固定せずに、需給バランスに応じて変動させる価格戦略である。近年、ビッグデータを活用したデータ分析が可能となり、AI活用が一般化したことにより、対象となる製品やサービスが加速度的に増加している。

重要度を増すダイナミックプライシング

ビジネスの利益を最大化するために、企業はさまざまな施策を講じているが、価格戦略はその重要な要素のひとつである。キャパシティが定まっているチケット販売などの分野では、かねてより売上げが見込めるサービスは価格を高く設定することで収益を増やし、売上げが期待できないサービスは価格を低く設定することで売れ残りを減らす戦略がとられてきた。これがダイナミックプライシングの典型的な狙いである。航空チケットにおいては、ハイシーズン(繁忙期)とローシーズン(閑散期)において、価格差が存在することはもはや常識である。早期割引などを併用すれば、3割から4割安く航空券を購入できることも珍しくない。LCCを候補に含めれば、実質8割もの価格差が生じ得る。今日、ビジネスにおいて価格戦略が非常に重要であることが読み取れよう。

コロナ禍の収束に道筋が立っていない現状では、需要動向の先行きが読みにくく、変動率が大きいことも視野に入れなければならない。GO TOトラベルキャンペーンでは、予想を上回る人出が見込まれ、緊急事態宣言下では激減するといった単純な予想も、短絡的といわざるを得ない。緊急事態宣言下での比較であるが、2021年の大型連休では、東京では前年同時期に比べて人出が大きく増え、東京都八王子市の高尾山では約4.8倍にも上った(『読売新聞』2021年5月5日)。ほかにも、多くの商業施設や行楽地の閉館の影響で限られた場所に人が集中するという結果となった。このように、緊急事態宣言への人々の慣れから生じる複雑な環境要因を、これからは視野に入れて予測する必要がある。

需要予測が重要になるのは、来客や集客を目的とするサービスにとどまらない。例えば、Amazon.comの価格は常時、消費動向を反映したものに更新されており、マーケットプレイスにおいても出品者が価格を最適化するためのツールが多種リリースされている。昨今は、飲食や小売りといった実店舗でも、需給バランスに応じて価格をリアルタイムに変動させる試みが広がっている。大手家電量販店のビックカメラでは、電子棚札(価格を表示する電子ペーパー)を試験的に導入して採算性を検証し、今後は全店舗・全商品に適用し、ダイナミックプライシングで本部システムから一括で店頭価格を変更する方式に移行する予定である。

経済産業省は「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」と銘打ち、2025年までにコンビニ大手5社の取扱商品に電子タグを取り付ける方針である。ダイナミックプライシングは、需給バランスの安定性を図るだけでなく、現場の負荷軽減の観点からも有益と見られる。より柔軟な導入が期待されることから、今後、さまざまな店舗でダイナミックプライシングの採用が加速するであろう。